「ざんねんだけどいとおしい」は人間にも通じる

小学3、4年生が主な想定読者だけに、学術論文めいた書きぶりは禁じ手だ。わかりやすくて面白いという難しい条件がつく。そのハードルを越えるために、原稿の執筆には特殊な態勢が組まれている。「最初に学術的に詳しいライターが事実関係に即した原稿をまとめる。次に、おもしろく書くのが得意な、別の書き手がその元原稿をリライトして、魅力を磨き上げる」(山下氏)。この2段階執筆システムが正確さと読みやすさを両立させる秘訣だ。さらに編集者が手を入れて、子どもにもおもしろがってもらえる文章ができあがる。

ほぼ1年に1点のペースで刊行を続けてきた。つまり、編集に費やせる時間は1年に満たない。実際には編集を終えてからの販売活動もあるから、中身の準備期間はさらに縮まる。編集業務のうち、投じる時間の割合は「半分以上がネタ探し」だという。生き物の研究者は海外にも多いので、英語の文献を読み解く必要もある。過去に読者の反応がよかった切り口を参考にしつつ、過去ネタとの類似を避けながら、「ざんねんポイント」を探していく。宝探しのような読み込みが「年1回出る事典」という、異例のシリーズ継続を支えている。

ロングセラーになったおかげで、波及効果も広がってきた。サンシャイン水族館(東京・豊島)では特別展「ざんねんないきもの展2」を10月30日から開催する(2021年5月9日まで)。シリーズに登場する生き物たちを展示し、「ざんねんすぎていとおしい姿」を身近に感じてもらう企画だ。17年に開催した際は延べ19万人超が来場した。同水族館がある高層ビル「サンシャイン60」には高橋書店の本社があり、お膝元での開催となる。

第5弾までの累計販売部数は420万部を超えた

テレビ東京系では2分30秒のミニドラマ「ざんねんないきもの事典」も10月7日から放送が始まる(全24回)。小説や漫画のドラマ化は珍しくないが、事典を原作にするのは、異例中の異例だ。動画配信サービス「Paravi(パラビ)」でも毎話が配信される。原作の事典に登場する生き物を描くのではなく、似たような「ざんねんだけどいとおしい」ところを持つ現代人を描く。監修者の今泉氏は「いろんな『いきもの』(人間)がいることが生物多様性であり、関わりあって生きていることの大切さに気づいてもらえるとうれしい」とコメントを寄せた。

世の中にはそれぞれに異なる考え方や暮らしぶりの個人が存在する。多様な生き物の存在を伝えることは、そうした個人の多様性を意識することにもつながる。「みんなそれぞれ違う。それでいいと感じてもらえれば」と山下氏は、「ざんねんないきものたち」を通したダイバーシティー(多様性)への共感を期待する。

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