自分に自信がなく落ち込みます作家、石田衣良さん

作家。東京都生まれ。2003年「4TEENフォーティーン」で直木賞。動画サイト「ニコニコ動画」「ユーチューブ」で『大人の放課後ラジオ』を配信中。(https://j.mp/ncotoraji  https://j.mp/otoraji)。
作家。東京都生まれ。2003年「4TEENフォーティーン」で直木賞。動画サイト「ニコニコ動画」「ユーチューブ」で『大人の放課後ラジオ』を配信中。(https://j.mp/ncotoraji  https://j.mp/otoraji)。

自分に自信がなく、人とのかかわりや会話を楽しめません。自己啓発本などを読みましたが、参考になりませんでした。夫も同じ性格なら居心地も良いのかもしれませんが、正反対の超ポジティブ人間。自分がダメと落ち込みます。(愛知県・50代・女性)

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今をさること数十年昔に、ネアカとネクラという流行語がありました。当時、大学生だった僕は、読書好きで友人も少ないということで、自分はネクラなんだなあと、淋しく自覚していました。けれど同時に、どうしてネアカはよくて、ネクラはダメなんだと納得のいかない複雑な思いも抱いていたのです。人はみな平等、天はネクラの上にネアカを造らず、というではありませんか。

時は流れても人の心はたいして進歩しないもの。ネアカとネクラは、ポジティブ人間とネガティブ人間と形を変え、凡庸で代わり映えのしない性格分類は続き、大勢の犠牲者を生んでいます。

あなたは何事も暗く考えてしまうネガティブ型思考の持ち主。対して、パートナーの夫は超ポジティブで自信満々。なんともお似合いの夫婦ではありませんか。

結論を先に言いましょう。あなたの役割はすべてを悪い方向に考え、安全と慎重さを最優先に計画の穴を探し、弱点を正確に評価し、夫の無謀で勢い任せの人生プランにブレーキをかけることです。暗くて自信がなくて、落ち込む毎日大いに結構。もっともっと暗くなって、ふさぎ込みましょう。自分の能力はばりばりと発揮させないとね。

超ポジティブな彼が、どうしてあなたを選んだのか考えたことがありますか。勢いだけで生きている単細胞の男性には、思慮深く、アンニュイな雰囲気とダークな人生観を有する賢い女性が、誰よりも魅力的だったからなのです。

あなたが超ポジティブ人間に無理やり変身したところで、待っているのは熟年離婚がせいぜい。自分の決定的に足りないところを埋め合わせてもらう。それが古来、結婚相手選びの鉄則ですから、彼もあなたも正しい相手を選び、結婚という人生の賭けに成功したといえるでしょう。

あなたはまだネガティブ思考はよくない。ポジティブなほうがいいと、無批判に信じ込んでいるようですが、それが最初の間違い。僕たちが生きているジャングルみたいな世界では、積極性も消極性も最大限働かせないと危険なのです。ネガティブ思考にも立派な存在理由と価値があります。今度、彼を酔わせてネクラなわたしが好きかと問い詰めてみましょう。きっとうれしい返事がありますよ。

[NIKKEIプラス1 2020年9月19日付]


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