久しぶりの演技 やっぱり役者って面白い(井上芳雄)第77回

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。9月はミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』の公演で全国を回っています。坂本真綾さんとの2人芝居で、2012年の初演以来、4回目の再演。劇場の再開後はショーやコンサートの公演が続いたので、最初から最後まで舞台で役を演じたのは久しぶり。やっぱり役者って面白いとあらためて思っています。

ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』(9月19~22日御園座、24~27日東京建物Brillia HALL) 写真提供/東宝演劇部

『ダディ~』は、8月に公演した『ナイツ・テイル in シンフォニックコンサート』と同じく、ジョン・ケアード(脚本・演出)とポール・ゴードン(音楽・作詞・編曲)の作品。ジーン・ウェブスターの小説『足ながおじさん』をミュージカル化したものです。孤児院で育ち、たぐいまれな文才を持つジルーシャを真綾さん。彼女の才能を見抜き、月に1度の手紙を自分宛に送ることを条件に、大学に行く学資を援助する慈善家のジャーヴィスを僕が演じます。2人は別々の場所にいるため、舞台上では顔を合わせることはなく、ジルーシャが書いた手紙を通して、お互いの気持ちを表現します。ディスタンス(距離)をずっととっている話なので、たまたま上演が決まっていたとはいえ、今の状況にあった作品です。

演出のジョンは英国にいるので、『ナイツ・テイル~』と同じくリモートでの稽古でした。3年ぶりの再演ですが、前回までよりもコミカルでエネルギッシュなジャーヴィスになっているかもしれません。というのも今回のジョンの演出は、ジャーヴィスは最初からジルーシャに心を開いていて、お客さまとも心を通わせてほしいということでした。なので、ちょっとやり過ぎかなというくらいリアクションをするし、それでお客さまの反応を見ながら演じるようにしています。

以前ジョンに言われたのは、ジャーヴィスは慈善家だけど、幼少期の経験もあって、人間関係を築いたり、人を愛することに臆病なところがある人物。だからジルーシャに興味を持ちながらも、すぐには心を開けないんだと。お客さまは、ジルーシャに対しては最初から味方になりたいと思うけど、ジャーヴィスにはそうでもない。けど、彼を知れば知るほど好きになっていくという演出だったと思います。

それが今回は、最初からジルーシャにひかれていることや、彼のチャーミングなところを出していいと言われました。理由は聞いてませんが、ジョンが考える今のジャーヴィス像なのかもしれません。この作品は世界中で上演されているので、それを踏まえて、少しずつ解釈が変わってきたのかもしれないです。

もともとジャーヴィスは、僕が役作りをしたというより、ジョンが創造した人物です。原作にはジルーシャが書いた手紙しか出てこなくて、そこにジャーヴィスはこんな人だという描写はあるけど、彼自身の言葉はありません。だからジャービスは、ジョン自身ではないにしても似ているところがあるし、彼の考えが強く反映されていると思います。

例えば、劇中でジャーヴィスが歌う『チャリティー』という曲では、人に何かを与えるのは難しいし、逆に受け取るのも難しい、本当に関係を築きたいと思ったときには与える立場が邪魔をすることもある、という悩みが語られます。原作ではこうした心情はほとんど描かれてないので、ジョンの思いといえるでしょう。そんなジャーヴィスの率直な内面に心を打たれるお客さまも多いでしょうし、僕もとても共感できます。

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