「あるはずのないもの」凝視 星・惑星形成巡り大発見理化学研究所 主任研究員 坂井南美(2)

2011年に試験運用が始まった時、坂井さんの提案も採択されて、2012年に観測が実現した。

「ALMAの分解能は、これまでの100倍以上なので、原始星やその周囲のガスの様子を分けて見ることができました。私たちとしては、外側のガスから、原始星の周りにできている円盤、つまり、太陽系の大きさのようなスケールのところまで、炭素鎖分子が届いているかどうかが見たいわけです。観測データを見て、予想通り炭素鎖分子がそこまで届いていると分かりました。私たちが主張していた通り、原始星の円盤の化学組成は、飽和したギ酸メチルのようなものだけではなく、炭素鎖分子のような不飽和な場合もあり、つまり多様だと言えたわけです。でも、それだけではなかったんです」

化学組成について追い求めようとした坂井さんたちは、ここで原始星の構造や運動といった物理的な側面に踏み込むことになる。

「たとえば、炭素鎖分子は、原始星から100天文単位(150億キロ程度。1天文単位は地球と太陽の距離)の外側で見つかるのに、それより内側には見当たらなかったんです。一方、一酸化硫黄(SO)という物質は、ちょうどその100天文単位のあたりで急に増えて、その内側にも見られます。これは、100天文単位のところで、何か化学的な変化が起きているということです。それで、こういった分子がどんな運動をしているのかドップラー効果を見ると、どうやら、そこが原始星の円盤の端だと考えるのが一番妥当だと分かったんです」

原始星の周りの降着円盤には、外からいろいろなものが原始星の周りを回転しながら落ちてくる。それはのちのちに惑星系に発展するもとになるものだから「原始惑星系円盤」などとも呼ばれる。さらにもっと遠くなって「エンベロープ」と呼ばれるようなガス雲の広がりに至るまで連続的にスムーズにつながっていると以前は考えられてきた。しかし、坂井さんたちが見出したのは、明確な区切りがあるということだ。

これはむしろ物理学的な説明ができるという。

「原始星の周りを回転しながら落ちてきたものは、どんどん落ちてきて回転半径が小さくなると、回転が速くなります。すると、遠心力が大きくなって、あるところから内側には落ちられずに、今度は、おっとっとっと、というふうに逃げていってしまうはずなんです。でも、実際にはそうならず、そこにとどまって円盤を形作ります。それはなぜかというと、後から次々とガスが降ってくるので、逃げようにも逃げられない状態になるからだと考えました」

この話を聞いた時、風呂の水を抜く時の排水口の周りの渦を思い出した。渦の中心に近いほど、つまり回転半径が小さいほど、回転が速くなるのは見た目に明らかだし、後から後から水が押し寄せるので、かりに遠心力で弾き飛ばされそうになっても逃げられないというのも同じだ(もっとも、排水口の渦の回転程度では、それほどの遠心力を生まないだろうから、あくまでもイメージとして)。

「逃げようにも逃げられないと何が起こるかというと、互いにぶつかって摩擦が起きて、温度と密度が上がります。そこで化学反応が起きて、化学組成が変化します。それが実は原始惑星系円盤の端だったというわけです。内側には安定した円盤があって、その円盤の端のところで化学組成が変化しているんです」

ここは坂井さんが作成した図表をみせてもらいつつ説明を受けた。

炭素鎖分子などの観測により明らかになった惑星系円盤形成の様子(模式図、画像提供:坂井南美)

まず、原始星の重力と、落ちてくるガスの遠心力が釣り合う位置を「遠心力半径」と呼ぶ。しかし、実際には、落ちてくるガスの勢いがあるため、「遠心力半径」のさらに半分くらいまで入り込むことができて、その境界を坂井さんたちは「遠心力バリア」と呼んでいた。そして、まさにこの部分がすなわち、「円盤の端」に相当していて、化学組成が変化している部分なのだという。

また、「遠心力バリア」のあたりが、観測事実に基づいて分厚く描かれており、それも、実は大きな意味を持つ発見だったという。

「落ちてきたガスが遠心力に弾き飛ばされずにとどまって円盤を形成する仕組み自体、これまでの円盤形成の理論では、長年の謎だったんです。回転しながら落ちてきたガスの角運動量をどこかに捨ててあげないと、そこにとどまれないわけですから。でも、遠心力バリアの部分で摩擦が起き、衝突して温度が上がる中で、円盤に対して水平に落ちてきたガスのうちの一部が、垂直方面に逃げ出して、角運動量を持ち去っていると分かりました。円盤の一部が膨み、厚くなっていることも観測で確認できました」

物理学の法則として、角運動量は保存される。それをなんらかの形で捨てないと、滞留できない。従来は、原始星の周りに形成される磁場の影響でガスが円盤を作る仕組みなどが提唱されていたが、そういったことを前提にしなくても、非常にシンプルな説明ができることになった。こういった、物理学的なメカニズムが、化学組成について関心をもって観測したからこそ解明できたというのが面白い。

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