コロナで世界の「歩数」激減 日本は?WHOが対策も
7月下旬からの新型コロナウイルスの感染再拡大の影響もあり、今年の夏は基本的に自粛生活、リモートワークが続き、体が少し重く感じられた……。そんな人も多いのではないだろうか。最新の研究報告で、コロナ禍における世界各国の歩数の変化が分かってきた。そのデータとともにWHOが推奨する成人・高齢者の身体活動のポイントを紹介する。
米カリフォルニア大学の研究者らは2020年1月19日から6月1日まで、187カ国の合計45万5404人の歩数データを、スマートフォンの加速度計と歩数カウント用のアルゴリズムを使って収集し、分析結果を医学学術誌「Annals of Internal Medicine」に発表した。
各国の1日当たりの平均歩数について分析した結果、世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症に関するパンデミック宣言を発出した3月11日から10日以内に世界の平均歩数は5.5%減少し、30日以内では27.3%減少していた。
イタリアの歩数はほぼ半分に、日本も3割減
この研究によると、平均歩数の変化やその速度には、国による大きなばらつきがあった。最も大きく減少したのはイタリアだ。2020年3月9日にロックダウンを宣言して以降、48.7%の最大減少を示した一方、ロックダウンはせずソーシャルディスタンスと会合の制限のみを提唱していたスウェーデンは6.9%の最大減少にとどまった。
日本は、韓国、台湾と同様、感染拡大の被害が少なかった分、減少幅は比較的緩やかだった(図1参照)。パンデミック宣言後、宣言前(2020年1月19日から3月11日まで)の1日当たり平均歩数から歩数が15%減少するまでの日数で見ると、ロックダウンを実施した欧州各国がイタリア(5日)、スペイン(9日)、フランス(12日)であるのに対し、日本は24日だった。しかし、4月16日から5月25日までの緊急事態宣言下においては、日本も最大30%程度、歩数が減少している。
【図1】パンデミック宣言前と比べての歩数の変化率
一方、データを基に身体活動などの変化を分析しているリンクアンドコミュニケーションが東京大学大学院医学系研究科健康教育・社会学分野教室と共同で行った調査によると、緊急事態宣言の前後で、日本人の男性(1238人)では1163歩(8483歩→7320歩)、女性(2086人)では1100歩(6017歩→4917歩)、1日の平均歩数が減少していた。さらに、歩数を継続して計測した結果、対象者全体に占める「3000歩未満」の人の割合が、2020年1~2月では15%程度だったのに対し、緊急事態宣言期間中の4月は27%、5月は30%程度と、3割弱まで増加していた(図2参照)。
【図2】歩数の分布の変化
緊急事態宣言が解除された6、7月においても、「3000歩未満」の人の割合は22%、24%程度となっており、わずかに回復傾向にはあるものの、新型コロナウイルスの影響前である1~2月の水準に比べて、高止まりしていることが明らかになった。
コロナ禍での正しい身体活動とは?
こうした身体活動量の変化以外にも、長期化するwithコロナ生活で、現在、様々な体調変化の懸念が指摘されている。スポーツ庁では、身体活動が不足していることによるストレスの蓄積、体重増加、生活習慣病の発症・悪化、体力の低下、腰痛・肩こり・疲労、体調不良への注意を呼びかけている。高齢者については、これらに加え、転倒や足腰が弱るロコモティブシンドローム(運動器症候群)発症、身体機能や認知機能が低下するフレイル(虚弱)の発症も危惧されている。
では、新常態と呼ばれる生活に入っている現在、どのような指針に沿って身体活動を行うのが"正解"なのだろうか。WHO西太平洋地域事務局ヘルスプロモーション部門のテクニカルオフィサーであるリッタ・マイヤー・へマライエンさんは、8月18日に慶應義塾大学日吉キャンパスで行われたオンラインシンポジウム「慶應スポーツSDGs」の特別講演で、「身体活動には健康上の多くのメリットがあるにもかかわらず、高所得や低・中所得の国や州で、身体不活動レベルが高くなっています。今、重要なのは、Move more, sit less(もっと動いて、座り時間は短く)。そして、運動中・前後において、手指消毒、ソーシャルディスタンスを徹底すること。政府の関連当局の指示に従うことが、ウイルス拡大防止に取り組む上でも重要です」とアドバイスしている。
コロナ禍における身体活動について、WHOはより詳細なファクトシート(情報集)もまとめている。それによると、成人・高齢者については、次に記すことがポイントとなるという。
・熱やせき、呼吸困難症状があるときには運動はしない。
・座り時間を減らすため、仕事中や勉強中、テレビを見るとき、SNS(ソーシャルメディア)の使用時などには、20~30 分間に1度、3~5 分間の短い中断(ブレイク)をとる習慣を。
・立ったり、ストレッチをするだけでもいいが、家の中でも歩いたり、階段を上り下りしたりするほか、家事を活用するのも有効。
・音楽に合わせて踊る、子供と一緒に公園を歩くなど、身体活動時間を楽しむ。
・ヨガなどオンラインでの運動教室に参加するなど、自分なりのルーチンを作る。
・水入りのペットボトルなどの重りを持ち上げるなどの筋トレ、腕立て伏せ、腹筋、スクワットを行う。
(出典:WHO「新型コロナウイルス感染症の感染拡大時も活動的に」日本語版)
成人・高齢者なら「中強度で週150分」をWHOが推奨
とはいえ、一体どのくらいの身体活動を行えばいいのだろうか。WHOは2018年、運動不足の人を2025年までに10%、2030年までに15%減らすことを目的に、『身体活動に関する世界行動計画2018-2030(GAPPA)』を発表。その中で、世代ごとの身体活動量の推奨量を定めている。
日本運動疫学会の協力を得て、2020年1月、GAPPAの日本語版を発行した慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科の小熊祐子准教授は、「GAPPAでは、成人・高齢者なら、1週間当たり・自転車やウオーキング、ガーデニングなど中強度の身体活動で150分、もしくは高強度の身体活動なら75分を推奨しています。活動量は多ければ多いほど健康への便益が増えますが、何もしないよりは、少しでもやった方がいい。そして、すべての人に筋トレも推奨されています。少しずつでも始めて、できれば週2回以上行うのが理想」と解説する。
個人の身体活動が社会貢献につながる?
ただ、多忙なビジネスパーソンの中には、体を動かすことが健康にいいと頭では分かっていても「なかなか続かない…」という人も多いかもしれない。しかし、身体活動量を増やすことは、自分の健康を守る目的のみならず、実は社会貢献にもつながるとしたらどうだろうか。
あまり知られていないが、身体活動は、国連が定めた2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)に貢献することが分かっている。「GAPPAによると、身体活動を向上させる政策措置は全部で17あるSDGsの目標のうち、3番目の"すべての人に健康と福祉を"をはじめ、合計13もの項目に関連しています。座りっぱなしなど不活動な時間を減らし、身体活動を増やすことによって、個々人の健康増進だけでなく、持続可能な環境・社会や経済面で多様な貢献が期待できることを、ぜひ知っていただきたい」と小熊准教授は指摘する。
例えば、車での移動を減らし、歩きや自転車による移動などアクティブな時間を増やす人が増えれば、CO2の排出量が減る。身体不活動の時間を減らすことで、運動不足がリスクとなる様々ながんや、糖尿病などの生活習慣病の罹患(りかん)者は減り、医療費を削減できる可能性もある──。コロナ禍でこれまでの生活スタイルを見直す人が増えている。私たち個人の生活のあり様が環境・社会や経済に波及していくことを今まで以上に想像しながら、一人ひとりの生活に合う形で身体活動量を増やす方法を模索していってはどうだろう。
(文 新村直子、図版制作:増田真一)
[日経Gooday2020年9月14日付記事を再構成]
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