たき火に癒やされる自分時間 ソロキャンプ試してみた
豪華なキャンプスタイルの「グランピング」が人気を呼ぶ一方で、対局にある「ソロキャンプ」が注目を浴びている。キャンプ好き芸能人がストイックにソロキャンプを楽しむYouTube動画が人気を集め、アウトドア用品店は専門コーナーを設けている。3密から遠く、今の状況にも合うソロキャンプを実践し、魅力を実感した。
登山・アウトドア専門店がひしめく東京・吉祥寺で、キャンプ用品のセレクトショップ「カスケードロックス」を訪ねた。店に通う20~70代キャンパーの多くがソロキャンプを楽しんでいるからだ。
店主の岩崎久典さんにソロキャンプの楽しみ方を尋ねると、「人それぞれ」と即答された。「散歩や読書、料理、天体観測、釣り、ひたすらのんびりするなど何をしてもいい。したいことを一人で思い切りできるのがソロキャンプ」というわけだ。
なるほど。自分のためだけに時間をぜいたくに使うことこそ、ソロの醍醐味なのだ。「自然の中だから」とナチュラリストになる必要はない。タブレットにダウンロードした映画を鑑賞してもいいし、仕事を持ち込んでもいい。
岩崎さんは一人で考えたいことがあると、ソロキャンプに出かけるという。大切にしているのは、夜のたき火タイムで、「ボーッと炎を眺めているだけで悩みが次第に薄れ、心が落ち着く」。
岩崎さんは、着火にライターやマッチではなく「火打ち石」を使う。アウトドア向けのおしゃれなデザインの商品が発売されているのだ。「客にも薦めている。手間をかけて火をおこせばそれだけたき火への思いが深くなる」。じか火禁止のキャンプ場では専用のたき火台を使うといい。
ソロキャンプの利点は荷物が少ないこと。テントや寝袋、イス、テーブル、調理器具、ランタンなど小型で軽量な製品を選べば、容量60~80リットルの登山用リュックに収まるので、鉄道を使ったキャンプ場への移動も視野に入る。
岩崎さんの話を聞いた翌週、さっそく埼玉県・荒川上流部のあるキャンプ場に登山用リュックを担いで電車と徒歩で向かった。午後2時にソロキャンプ専用で8メートル四方のテントサイトに到着。30分でテントとタープを張り終えた。
川沿いを散歩し、キャンプ場の売店で買った地ビールで喉を潤してから、夕食の支度を始めた。調理器具や材料の準備は明るいうちに終えておくと万事がスムーズに進む。ランタンの柔らかい明かりの下で、鉄製フライパンのスキレットで肉を炒め、お一人様ディナーを楽しんだ。
食後は持参した小型コーヒーミルでひいたマンデリンを味わいながら、やはりコンパクトなたき火台の揺らぐ炎を眺めた。岩崎さんが言った通り、心が安定するのを実感した。寝る前にLEDランタンをつるしたテントの中で文庫本を20ページほど読み、川の水音と虫の鳴き声を聞きながら眠りに落ちた。翌日は鳥のさえずりで午前6時前に気持ちよく目が覚める。くつろぎ、飲んで食べて寝ただけのキャンプだったが、不思議な充実感が胸にあふれた。
これから初めてキャンプをしようという人は本番前に自宅の庭などで設営のリハーサルをするといい。また、女性が安全なソロキャンプを楽しむためには、女性専用浴室やシャワー室があり、管理人が常駐する「高規格キャンプ場」を選びたい。
キャンプ道具をすべてそろえると最低で5万円ほどかかるが、一度買えばずっと楽しめる。お一人様向け用品が充実した今こそ、ソロキャンプを始めるいい機会だと思う。(ライター 大谷 新)
[日本経済新聞夕刊2020年9月12日付]
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