5mの魚竜が4mの獲物丸のみ 奇跡の化石が示す証拠

日経ナショナル ジオグラフィック社

「幸い今回は、見分ける方法がありました」と氏は言う。魚竜の胸郭がタラトサウルスの表面を包んでおり、タラトサウルスが本当に食べられていたことを示していた。しかし、食べられたタラトサウルスがどのような状態だったか、という問題は残る。魚竜は、自分でタラトサウルスを襲ったのではなく、たまたま別の原因で死んでいたタラトサウルスの死骸をあさっただけかもしれない。

藻谷氏らが腹の中の化石をさらに詳しく調べると、真っ先に腐り落ちるはずのタラトサウルス手の指がまだついて残っていた。これは、腐敗してバラバラになったものを食べたのではないことを示している。

魚竜の胃からは、タラトサウルスの頭蓋骨と尾は見つからなかった。研究チームは、魚竜から約20メートル離れたところからタラトサウルスの尾の一部を発見した。同じ個体のものであることを証明する方法はないものの、「実を言うと、尾の大きさはぴったりなのですが」と藻谷氏は言う

研究チームは、魚竜がおそらく水面でタラトサウルスを襲って殺したのではないかと推測している。その後、魚竜はワニのように死骸を丸ごと、あるいは非常に大きな塊のままのみ込もうとしたのだろう。魚竜がタラトサウルスの体の中で最も大きくて肉の多い部位に噛みついたり叩いたりした間に、細い首と尾は切り離されて流れ去っていったのかもしれない。

魚竜の胃の中から見つかったタラトサウルスの標本(PHOTOGRAPH COURTESY OF JIANG ET AL)

歯の形にもとづく定説の限界

時代を遡って太古の食事風景を観察することはできないので、科学者たちはしばしば化石の歯を調べて、古代の動物が何を食べていたかを判断してきた。初期の魚竜の歯は、これまで頂点捕食者と関連付けられてきた鋭くてギザギザした形ではなく、先が丸い円錐形をしていて、より繊細な食事を好むとされていた。

英エディンバラ大学の古生物学者スティーブン・ブルサット氏はこの研究には参加していないが、今回発見された化石は、歯の形だけにもとづいて、古代の動物が何を食べていたかを推測するのは危険であることを教えてくれたと言う。初期の魚竜の中にも、ふにゃふにゃの頭足類だけでなく、もっと食べごたえのある大物に向かっていく大胆さを持ったものがいたのかもしれない。

「太古の化石を詳しく調べると、ある1つの武器が、私たちが考えていたよりはるかに大きなダメージを与えることができたことを教えてくれる時があります」とブルサット氏は言う。

米メリーランド州にあるハワード・コミュニティ・カレッジの地質学者で古生物学者のジェシカ・ローレンス・ウジェック氏は、この研究には関与していないが、胃の中身が化石化するのは非常に珍しいと言う。彼女は魚竜の標本を何百点も見てきたが、胃の中身が化石化したものはたった1~2点しかなかったと言う。

「胃の内容物が保存されていることはめったにありません。ましてや、こんなに大きなものが保存されていることは稀です」とローレンス・ウジェック氏は言う。「すばらしい化石です」

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