日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/9/19

マイクロプラスチックの流れを追う

「どうすればプラスチック汚染を減らせるのか、それを理解するためには、その流れを知る必要があります」と、カナダのトロント大学の海洋生態学者、チェルシー・ロッシュマン氏は言う。

「プラスチック汚染の存在を知るだけでなく、これからは、プラスチックが集まりやすいホットスポットに移動する速さや、生態系を移動する間にプラスチックがどう変化するかを、把握しなければなりません」

初期の調査の多くは、海岸で見つかったり水面に浮いていたりする大きなプラスチックに着目していた。だが、プラスチックの小片は目立たないが広がりやすく、海溝の最深部から世界有数の高山に至るまで、事実上、地球のすみずみまで拡散している。マイクロプラスチックには極めて小さいものもあり、これらは風に乗って高く舞い上がり、地球を巡るちりの一部になっている。

ここ数年、科学者たちはあらゆる場所でマイクロプラスチックを追跡してきた。そして今、ロッシュマン氏が言う「マイクロプラスチック・サイクル」(マイクロプラスチックがどのように移動し、どこに蓄積し、移動中にどのように変化するか)を解明する方向へと研究が進んでいる。

マイクロプラスチックという用語は、5ミリ以下のサイズのプラスチック粒子を指し、基本的に2種類に分けられる。

一次マイクロプラスチックは、洗顔料などの日用品に用いられるマイクロビーズやプラスチックの原材料であるペレットなどで、意図的に小さく製造されている。二次マイクロプラスチックは、プラスチックの最大の長所のひとつである耐久性がもたらすものだ。もとは廃棄されたプラスチック製品だが、海で太陽光や波の力を受けて細かい破片に分かれる。その破片は、長い時間をかけてさらに小さくなっていく。これらは、数百年にわたって分解されずに残ると推定されている。

マイクロプラスチックが人体にどのような害をもたらすのかという研究も進められている。マイクロプラスチックは、飲料水や塩、その他の食物からすでに検出されているが、今のところ、人体への害は立証されていない。だが、魚や海水や淡水に生息する野生生物では、マイクロプラスチックが生殖機能を損ない、発育を阻害し、食欲を減少させ、組織の炎症や肝機能障害をもたらし、摂食行動を変化させるといった研究報告がある。

増える海中のマイクロプラスチック

15年に、世界の沿岸地域から海に流れこむプラスチックごみの年間量は、平均880万トンと推定された。米国の環境保護団体であるピュー慈善財団およびロンドンを拠点とする環境シンクタンク、システミックが先月発表した新たな報告書では、海へ流れ出るプラスチックごみのおよそ11%にあたる約140万トンが、タイヤ、製造用ペレット、繊維、マイクロビーズという4つの主要なマイクロプラスチックを由来とする。

もし、海へのごみの流入をすぐに止めたとしても、すでに海に流入したごみからマイクロプラスチックは生まれ続け、長年にわたって蓄積し続けるだろう。マイクロプラスチックは断片化し続けるため、現在、海にどれほど多くのマイクロプラスチックが浮いているかを算出するのはむずかしい。算出された値の多くは、海面上のマイクロプラスチックだけを対象としている。14年にモデル化された計算では、5.25兆~50兆個という数字が示された。だが、今年発表された新たな論文によれば、この試算値は少なすぎるようだ。

英国のプリマス海洋研究所、エクセター大学、キングスカレッジのチームと、調査船を提供した米バーモンド州のロザリア・プロジェクトは、大西洋両岸の沿岸の海水をサンプルとして採取した。調査チームは、過去の調査では採取されなかった、餌に似た極小のナノプラスチックや繊維を採取するために、網目が細かい網を使用した。「Environmental Pollution」誌に発表された今回の推定では、世界のマイクロプラスチックの量は12.5兆~125兆個とされた。これは、従来の試算の2倍以上にあたる。

「従来のサンプリング方法では、マイクロプラスチックの数を大幅に過小評価していました」と、論文の共同著者でプリマス海洋研究所の海洋生態学者であるマシュー・コール氏は話す。「十分に目が細かい網をつかえば、海の隠れた地図を明らかにできるのです。そうしなければ、この実態は目に見えません。それでも、これは海面のマイクロプラスチックだけの数で、海底に沈んでいるマイクロプラスチックは、今回の地球規模の推定には含まれていません」

世界中の海底にマイクロプラスチックが大量に沈んでいることを、科学者たちはかなり以前から認識していた。だが、海底での密度や分布の状況については、ほとんど把握されていなかった。しかし、激しい底流が、特定のホットスポットにマイクロプラスチックを集中させる重要な役割を果たしていることを、ドイツ、フランス、英国のチームが新たに発見した。海面で潮の流れに乗って集められたごみが浮遊して「ごみの渦」ができるが、その海底版といえるだろう。

調査チームがイタリアの西の地中海海底を精査したところ、深い海溝からも、これまでにない大量のマイクロプラスチックの堆積物が見つかった。1平方メートルに最大190万個ものマイクロプラスチックが薄い層をなしていた。

あいにく、これらのホットスポットは、海綿類や深海サンゴ、ホヤなどの主要な生息地でもある。これらはろ過摂食生物(水を大量に飲みこんで餌をこして摂食する)であるため、マイクロプラスチックには特に影響を受けやすい。

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生物や農地にも影響