氷川きよし 時には演歌界から脱線する「暴れん坊」に氷川きよしインタビュー(下)

日経エンタテインメント!

多様なジャンルの歌に引かれながら、20年間、演歌だけに身を捧げ膨大な数のステージをこなしてきたプロの生き様は、十分ストイックに見える。歌手を辞めたいと思ったことはないのですか、と尋ねてみた。

「ありました。『辞めようかな』って周囲にこぼしたことも。だけど……辞めたところで、どこにも行く場所はないし……。

やっぱ『Never give up』、諦めないことですよね。何があってもしぶとく、図太く続ける精神力が必要なんだと思います。たとえ一人ぼっちでも続けようともがいていると、励ましてくれる人は現れるから。逆にそういう時に自分にとって必要な、いい人たちだけ残るとさえ思う。だから何とか乗り越えてこれたんじゃないですかね」

会場によってはボー然とされるも……

「長年のファンの方々も、その多くが今回のイメージチェンジを温かく見守ってくださってるようでありがたいです。もっと賛否両論分かれるかと腹くくってたんですけど、『きーちゃんが表現するものなら好きだ』『違った面が見れて楽しい』って言ってくださる方がたくさんいて。もちろんコンサート会場によっては、『限界突破×サバイバー』を歌った時『何のこっちゃ分からない』という顔をされてる方も客席に見えて(汗)、ああ申し訳ないなぁと思ったりもしたんですけど…。

でも自分の20代の友達が、去年12月の東京国際フォーラムにこっそり見に来てくれて『“限界突破~”目当てで行ったけど、股旅演歌っていうのも面白かった!』と言ってくれたんです。全然知らない世界だから面白いって言ってくれたのが…ああ、エンタテインメントできたのかなって。

股旅ものは、今後もやっていきたいんですよね。難しい高尚な感じにはせず、大衆的な分かりやすいものを見せていきたいと思ってますし、その世界も嫌いじゃない。それって他の人にはできないエンタテインメントじゃないですか」

このアルバムがおそらくは、氷川きよし第2幕のスタートラインとなるだろう。氷川が見ている今後の目標とは――。

「やっぱり演歌も含め、時代に合ったものを表現していきたいなというのがあります。デモテープを聴いて感動し『これをやるなら今だ!』と思ったなら、その自分の感性を信じることが大事になってくるんじゃないかと。間違うこともあるだろうけど、恐れないで自分の感性を強く信じること。

そうして今や完全に分断されてしまってる演歌とポップスの世界の、橋渡し的存在に……図々しいけど、なれればいいなと思いますね。そのためにやってる部分もあるし。その道一本で行くっていうのもかっこいいですけど、自分は、時には演歌界のレールから脱線する暴れん坊でいたいです(笑)」

『Papillon-ボヘミアン・ラプソディ-』
左:初回完全限定盤(DVD付、3545円)、右:通常盤(2909円)、価格はともに税別
デビュー20周年の節目に送る6年ぶりのオリジナルアルバム。ポップスのみのアルバムは氷川きよしとしては初であり、演歌チャートを飛び出した総合ランキングで初週ビルボード1位・オリコン2位を獲得した。進化する氷川自身を象徴する重厚なロックナンバー『Papillon』、クイーンの名曲のカバー『ボヘミアン・ラプソディ』、SNS社会へのメッセージをEDMに乗せて軽やかに歌う『キニシナイ』、奇抜な扮装のミュージックビデオが話題の『不思議の国』ほか全14曲を収めた意欲作。圧倒的歌唱力で示す人間・氷川の現在地が味わえる(コロムビア)。

(ライター 上甲薫)

[日経エンタテインメント! 2020年8月号の記事を再構成]

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