コロナ禍で広がるメタノール中毒死 世界で最多ペース

日経ナショナル ジオグラフィック社

メタノール中毒の仕組み

メタノールとエタノールは、極めてよく似た化学物質だ。炭素原子がエタノールには2つあり、メタノールには1つしかない。どちらも揮発性の高い透明な液体で、味も似ている。しかし飲むとなると話は違う。高濃度エタノールをショットグラスで1杯飲めば、多くの人は高揚感を味わえる。だが同量のメタノールを飲めば、朝までに死んでいるかもしれない。

肝臓は、酵素を用いて、弱毒性であるエタノールを無害な酢酸に変換する。メタノールも酵素によって分解されるが、これが問題の始まりだ。

メタノールは、無害な酢酸ではなく、有毒なギ酸に代謝されるのだ。ギ酸は細胞がエネルギーを作り出す能力を阻害する。これはエネルギーを大量に消費する視神経にとっては大問題であり、メタノール中毒患者の失明を引き起こす。

さらには、メタノールが分解されると体内の酸塩基濃度に不均衡が生じる。「メタノール中毒の場合、ギ酸が蓄積することで均衡が崩れるのです」と、米ニューヨーク州、アーノット・オグデン医療センターの救命救急医フランク・エドワーズ氏は説明する。

基本的な血液検査で手がかりが得られることも多いとはいえ、メタノール中毒の診断を下すのは容易ではない。体内の酵素はエタノールをすべて分解し終わってからメタノールの分解を始めるため、飲んだエタノールとメタノールの量によっては、中毒症状が現れるまでに数日かかることもあるからだ。

そのため患者は、今の症状がまさか過去の飲酒にあるとは思いも寄らないこともあるし、医師もまた、いつでも原因を見抜けるとは限らないと、酒の安全性や偽造酒を調査する非営利団体「SafeProof.org」の創設者ケマル・カンラー氏は言う。

「米国では、こうした事故は自動的に、飲みすぎやアルコール中毒に分類されています」と氏は話す。「メタノール中毒かどうかの検査も究明も行われないのです」

密造酒が原因に

メタノール中毒の診断が難しい理由の一つに、文化的な側面がある。アルコールが違法であるイランなどのイスラム諸国では、患者がその後の影響を恐れ、酒を飲んだことを隠すことが多いとハッサニアン=モハダム氏は言う。車のウォッシャー液など、メタノールを含む製品を故意に摂取した人も同様だ。また、メタノール中毒は意識レベルを低下させることが多いため、患者に経緯を直接聞くことが不可能な場合もある。

だが、医師が早期に診断できれば、治療で命を救うことができる。処方薬のホメピゾールは、アルコール脱水素酵素に結合し、メタノールがギ酸になるのを防ぐ。ホメピゾールが利用できない場合は、エタノールを投与する。いずれの場合も、メタノールがギ酸になる前に体外に排出されるのを助ける。

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