――ご両親はVANが提唱したTPOを実践していたのですね。
「2人とも着飾るのが大好きで、持っている服の数がすごくて、こちらが食傷気味になるくらい部屋中、洋服だらけ。私が着るのは小さいころからシンプルなものばかりで、紺ブレにスカートという、まさにアイビーっぽい格好でした。高校生のころルーズソックスがはやり始めましたが、もちろん許されません。大学生時代はバブルの余韻みたいな時期で、周りではアルファキュービックやプラダのチェーンバッグがはやっていましたけれど、私はイケイケの格好はしませんでした。当時、父が勤めていた婦人服ブランドのスエードのセットアップなどを着ることが多く、ファッショナブルな人とは思われていたようです」
「朝、出かける前に、ちょっと待ちなさい、と母に引き留められて身なりを確認されることがよくありました。私に変な格好をしてほしくなかったようです。社会人になってからもよく母に服を買ってもらっていました」
母の言葉「服装は足し算、引き算考えて」
――社会人になってから服装への意識はどう変わりましたか。
「自分の好きなもの=似合うものではない。人からどう見えるか、ということをすごく気にするようになりました。母の教えは服装を考えなさい、足し算、引き算をちゃんとしなさい、というもの。きょうも母の教えの実践です。メンズライクなジャケットにはアクセサリーで遊び心を出しました。全体が真面目になりすぎないように、メリハリをつけて、接しやすさ、女性らしさのようなものを出すようにしています」

――仕事の装いでのマイルールはありますか。
「数年前、骨格診断をする友人に、私の骨格とか、顔の形とか、体形から、どういったものを着ればすてきに見えるのかをアドバイスしてもらいました。他人と同じものを着ていても、どうして私はあか抜けないのだろうか、と思うことがありますよね。そんな悩みを論理的に解決できることが分かりました。私の体形では襟があるジャケットを着ることや、シャツの襟を開けることで、縦のラインを出す。ショルダーバッグみたいなものは間延びするから避ける。あとは袖をまくり、きゃしゃな腕を少し見せるようにするのもこだわりです」
――買い物はよくしますか。
「モノを買うのが好きなタイプではないのですが、母からは、ファッション業界にいるのだからたくさん買いなさいと言われてきました。たくさん着て、触って、いろいろなものを知る。いいものには、いいものなりの理由がある。見る目を養えば、リーズナブルでもよいものを選別する力がつくと教えたかったのでしょう」
――今はTPOや身だしなみについて教える人が少なくなって、服も低価格品が全盛です。
「日曜日の夜、父は必ず靴の手入れをしていました。クリームを選び、すり減ったところはチューブで何かを充填して固めて。いいものは長持ちする。最初にいいものを買っておくと、ほかのものはほしくなくなる。だから節約になるんだ、と言っていました」

「初めからルイ・ヴィトンを買いなさい、みたいなことも言っていました。確かに長く使えますし、私のおしめを入れていたルイ・ヴィトンのショルダーバッグがいまも家にあります。子供心にLとVのモノグラム柄って変わっている、どうしてうちのママだけこれなんだろうと気になるほど、印象に残っていました。愛用しているルイ・ヴィトンはすべて母が買ってくれたもので、10年以上大事に使ってきたものばかり。使いやすくて丈夫で、手放せないのです」
(聞き手はMen's Fashion編集長 松本和佳)

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