「キャリアアンカー」と「キャリアサバイバル」

キャリア論の泰斗エドガー・シャイン博士の失敗した研究から生まれた「キャリアアンカー」は、キャリアにおいて譲れないもの、環境がどうあろうとそこから遠くには行かないものという概念です。

「どんな仕事が好きか(動機)」「どんな仕事にやりがいを感じるか(価値観)」「どんな仕事が得意か(コンピタンス)」といった問いへの答えによって8タイプに分類されます。近年リクルートはその8つの中から、「働き方」の視点からタイプを4つに絞りました。「経営管理志向」「専門能力志向」「自律(立)志向」「起業家志向」です。

シャインはキャリアの研究を続ける中で、アンカーだけでは船の航路は決まらないと気付きます。いくらその職に思い入れがあろうが、組織の期待値とかけ離れていては、船は沈みます。波を乗り越えるための力や、嵐を避けるレーダーが必要です。期待値と自分のキャリアの方向性をすり合わせることの重要性を説いたシャインの文章を、出版社が「キャリアサバイバル」と名付けました。

シャインは、「サバイバル」自体は長い人生のキャリアにおいては本質的ではない、とそのネーミングに不満だったそうですが、今でも彼の業績としてよく使われます。アンカーの発見と、現状からのシフト(起業、転職や異動)、そこでのサバイバルを繰り返しながら、キャリアは進んでいくのです。

従来のキャリア論に足りないもの。サバイバル方法とシフトの方向

ただシャインはキャリアアンカーについて「職業経験が乏しいと見えてこない」と言います。様々な職業経験を積んでいく中で、浮かびあがってくるものだと。それはそうでしょう。でも「何が得意で、何が好きかは、やってみなきゃわからない」では日本人は困ります。そんなに転職経験も豊富ではないのですから……。

そして日本ではまだ転職自体が簡単ではないので、よい転職や昇進につなげるためには、最初の職場で評価される、業績を上げることがダイジです。なんといきなりのキャリアサバイバル状態! 転職して中途採用者と呼ばれると、組織も環境も違うのにいきなり「即戦力」であることを求められます。初めての転職でそんなうまくいくわけないのに。

日本ではキャリアサバイバルがダイジです。でもキャリア論の本筋ではないので、その強化方法について(ほとんどの)転職支援会社やキャリアコンサルタントはアドバイスしてくれません。そしてキャリア論でもっと問題なのは、キャリアシフト(やワークシフト)のシフトする方向がよくわからないことです。結局、たまたまの機会とのマッチング、で次の職場が決まっていきます。

・足りないもの(1):サバイバルのための必須スキルとその強化方法
・足りないもの(2):シフトの具体的方向決め

(1)についてはこの後の5~7回で述べ、(2)については9、10回で私自身の経験を基に、私的キャリア論として述べたいと思います。

三谷宏治
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授。
1964年大阪生まれ、福井育ち。東京大学理学部物理学科卒業後、BCG、アクセンチュアで19年半経営戦略コンサルタントとして活躍。92年INSEADでMBA修了。2006年から教育分野に活動の舞台を移し、年間1万人以上に授業・講演。無類の本好きとして知られる。著書に『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『新しい経営学』など。『お手伝い至上主義!』『戦略子育て』など戦略視点での家庭教育書も。早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学で客員教授、放課後NPOアフタースクール・認定NPO 3keysで理事を務める。永平寺ふるさと大使、3人娘の父。

戦略読書 〔増補版〕 (日経ビジネス人文庫)

著者 : 三谷 宏治
出版 : 日本経済新聞出版
価格 : 1,100円 (税込み)

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