乳酸菌やポリフェノール、粘膜免疫維持に働く食品成分

しかし、仕事の量やそれに伴うストレス、睡眠不足といった生活因子の調整は難しいというビジネスパーソンも多いだろう。

自分の生活は粘膜免疫を弱めているかもしれないと感じる人が次に心掛けることができるのは食生活だ。

「まず、栄養バランスの良い食事をとることが大前提。免疫細胞のエネルギー源となるのは、ビタミン類、アミノ酸、糖質、脂質、ミネラルなど。これらを食事からバランスよくとり、免疫細胞が正常に働く環境を作っておかないと、IgA産生を高める力を持つ食品や食品成分が入ってもその働きは十分には発揮されない」と国沢さんは言う。そして、ビタミンの中でも糖質の代謝や粘膜の健康維持に欠かせないビタミンB1の例を挙げる。

「ビタミンB1を欠乏させたエサで飼育したマウスでは、腸管のパイエル板が小さくなり、IgAを産生する細胞の数も減少、感染にかかりやすい状態になる」(国沢さん)[注3]

こうした食生活のベースを維持したうえで摂取すると、粘膜免疫を高める働きが期待される食品がある。「乳酸菌などの菌類」、「食物繊維」、「ポリフェノール」からいくつかを紹介する。

・乳酸菌などの菌類

乳酸菌や腸内にすむ腸内共生菌など、菌類では報告数も多い。

例えば、乳酸菌b240(発酵茶由来の乳酸菌)では、これを摂取することで唾液中のIgAや唾液自体の量が有意に増加することが確認されている(グラフ2)。また、継続摂取で風邪罹患(りかん)者の割合が低減するという結果も出ている[注4]

<乳酸菌b240摂取で口腔内のIgA量が上昇>

80人の健康な高齢者を2群に分け、乳酸菌b240(20億個)を含む飲料摂取群、あるいは水を12週間摂取するプラセボ摂取群に分かれた。乳酸菌b240摂取群では2週目から唾液中のIgA量が高くなり、4週目以降で有意に高値が維持された。(データ:Immun Ageing. 2010 Aug 26;7:11. )

他にも、L.ロイテリ菌、乳酸菌シロタ株、乳酸菌1073R-1株といった乳酸菌でヒト唾液内でのIgA量の増加が確認されている。

国沢さんが現在研究に取り組むのが、腸管のパイエル板から発見されたアルカリゲネスという菌。グラム陰性菌という種類に分類されるヒトでも観察される共生菌だ。樹状細胞という免疫細胞に働きかけてIgAを作れという指令を送る機能が確認されている。

マウスの試験では、アルカリゲネス菌が作る免疫活性成分を肺炎連鎖球菌ワクチンと一緒に鼻に投与したところ、鼻腔(びくう)でも気管支でもIgAが増え、ワクチンの効果を高めたという[注5]

・食物繊維類

免疫細胞が多く集まる腸管に物理的な刺激を与えたり、腸内細菌のエサになってその代謝物がIgA産生を促す作用があったりする食物繊維も十分な量をとるようにしたい。

果物などに多いペクチン、ゴボウなどに含まれるイヌリンという2種類の水溶性食物繊維を多く与えたマウスでは、腸、脾臓(ひぞう)、血液中のIgAが増加した。また、食物繊維の仲間であるパラミロンというユーグレナが含有する成分の乾燥粉末を摂取するヒト試験でも、唾液中のIgA濃度の上昇が確認されている[注6]

・ポリフェノール

植物が含む抗酸化物質ポリフェノールにも期待が持てそうだ。茶カテキンやクロモジというようじに使う木のポリフェノールなどでは、病原体が粘膜細胞に侵入することを妨害する作用が見いだされている。

また、ベリー類の一種でポリフェノールのアントシアニンを豊富に含むカシスエキスを毎日摂取する群、しない群を比較した結果、カシス摂取群でのみ唾液中のIgAが有意に増え、抗ウイルス物質のディフェンシンも増加したという報告もある(グラフ3)。

<カシス摂取で唾液中IgAとディフェンシンが増加>

健康な男女36名(平均年齢39歳)が1日に体重1kgあたりアントシアニン量として3.2mgのカシスエキスを5週間摂取する群、プラセボ群に分かれた。試験開始1週目と6週目に、各群がボートこぎ運動30分間を行い1時間後の唾液中成分を分析。カシスエキス摂取群は、唾液に含まれるIgA、ディフェンシンが有意に増加した。(データ:Front. Nutr., 27 February 2020)

このような食品成分が、病原体ではないのにIgA産生を促し、粘膜免疫の維持に役立つのはなぜか。その理由を国沢さんはこう説明する。「食品や飲料としてとる乳酸菌のように、免疫細胞が“病原性はないけれど異物”と判断した場合も、その刺激でIgA産生などを促進するから。こうした食品類を継続的にとってIgA量を維持しておくことで、侵入してきた病原体に素早く反応できる」。

なお、日々できることとして、丁寧な口腔ケアも忘れずに。デイケア施設に通う高齢者に看護師や介護者が週1回、口腔ケアを行ったところ、セルフケアだけの高齢者群よりもインフルエンザ発症が10分の1となったという報告がある[注7]。この研究では、唾液中の悪玉細菌数の減少が報告されているが、ほかにも、しっかりした口腔ケアで、唾液量が増えたり、唾液中のIgAや抗菌物質が増えたりするというデータもある。

感染リスクが気になる今こそ、感染の入り口である口腔、上気道の免疫の重要性を見直し、できることから取り組んでいきたい。

[注3]Cell Rep. 2015 Oct 6;13(1):122-131.

[注4]Br J Nutr. 2013 May 28;109(10):1856-65.

[注5]Microorganisms. 2020 Jul 23;8(8):E1102.

[注6]Cell Host Microbe. 2016 Aug 10; 20(2): 202-214.

[注7]Arch Gerontol Geriatr. Sep-Oct 2006;43(2):157-64.

(ライター 柳本操、イラスト 三弓素青、グラフ 増田真一)

国沢純 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチン・アジュバント研究センターセンター長
ワクチンマテリアルプロジェクト&腸内環境システムプロジェクトプロジェクトリーダー併任。大阪大学薬学部薬学科卒業、同大学院薬学研究科博士課程修了。東京大学客員教授、大阪大学招聘(へい)教授、神戸大学客員教授、広島大学客員教授、早稲田大学客員教授などを兼任。感染症やアレルギー炎症性疾患に対する粘膜ワクチンの創出に取り組む。
「健康」「お金」「働く」をキーワードに、人生100年時代を生きるヒントとなる情報を提供する「ウェルエイジング」を始めました。
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