自分で運転するなら… ロールス・ロイス「カリナン」

2020/9/6
ダッシュボードには塗装から研磨までに21日間を要するというカーボンパネルが惜しみなく使われる

「トワイライトパープル」というボディーカラーのブラックバッジ仕様はなかなかパンキッシュだ。エルヴィス・プレスリーのピンクのキャデラックやジョン・レノンのサイケデリックな模様の「ファントムV」のように、世の中にはびこる“こうあるべき”を打ち壊すような迫力がある。ブラックバッジは他のモデルにも設定される、やや悪ぶった仕様だ。スピリット・オブ・エクスタシーはハイグロスブラックに、その他のクロームパーツはダークペイントで仕上げられている。専用デザインの22インチアルミホイールとその奥に見える赤く塗られたブレーキキャリパーもどこか反逆的だ。

カーボンパーツがふんだんにあしらわれたインテリアはダークな色調でまとめられている。シートはボディーカラーと同じパープル。カーペットがとにかく分厚い。操作系はシフトレバーがステアリングコラムから生えるタイプであること、エアコンが希望温度を入力するのではなく、青と赤で区切られたダイヤルを、例えば暑ければ青が多く見えるように回して調整するタイプであること、そしてタコメーターの代わりにパワーリザーブメーターが備わることなど、いくつかの約束を除けば特に変わったところはない。ところどころに同じグループのBMWの各モデルと共通のスイッチを見つけることができる。

「ファントムVIII」などと同じくドアは観音開きとなる。毛足が長く厚みのあるフロアカーペットにはラムウールが用いられている

大きな船のような乗り味

エンジンを始動させる。振動はほぼゼロ。6.75リッターV12ツインターボエンジンは最高出力600PS、最大トルク900N・mを発生する。ブラックバッジのエンジンはノーマルのそれよりもほんのりハイチューンとなっている。車両重量は2750kg。走行中のエンジンフィーリングを表現するなら「静々と」である。巡航中はもちろん、アクセルペダルを踏み込んで加速させても静々としていて、メーターが示すパワーリザーブ量が少し減るとともにスピードが上がる。8段ATの変速ショックもほぼゼロ。パワートレインのスムーズなことにかけてはこの上ない。速く走らせることは造作もないが、気づくと速いという感じで過程を感じさせない。望む状態にもっていくまでになんのストレスも感じない。

ちなみにトヨタの最新モデルと同様、アイドリングストップ機構は備わらない。トヨタの場合は、同機構を用いずとも求める燃費性能が得られたため、ユーザーのメリットとデメリットをてんびんにかけて装備しなかったが、ロールス・ロイスの場合は、多分だが単にふさわしくないからだろう。

試乗車のボディーカラーは「トワイライトパープル」。全4万4000色のパレットから選べるほか、特注色にも対応する

高速巡航中に車内で計測すれば静粛性はワンノブベストだろうが、ダントツに優れているというわけでもない。スタイリングが災いするのか、速度を上げるとドイツブランドの各最上級サルーンよりも風切り音が高まる。一般道では最も静かなクルマといって差し支えない。

乗り味はかなりソフトだ。前後左右への姿勢変化を抑え込むのではなく、大きな船のように周期の遅い揺れを許容する。エアサスは車重の軽いクルマに用いると、路面からの入力の種類によってはバタついて高級感を損なうことがあるが、2.7tのクルマにはエアサスしか考えられない。カリナンの場合、車重を生かした重厚さがあり、高級感につながっている。ロールス・ロイスが最も得意とするところだ。60km/h未満なら世界でファントムの次に乗り心地がいいクルマだと思う。

メーターパネルの3眼はすべて液晶表示式。中央がスピードメーターで、左はパワーユニットの“余力”を示すパワーリザーブメーター
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