2020/8/22

探査車は詳細な車載地図を基に、眼下の地形を10~15秒の間、高速で撮影する。その後、システムが自律的に、直径10キロの着陸目標範囲の中の安全な場所に誘導する。

「この領域は、過去に着陸したどの領域よりも危険です」とモハン氏は言う。「けれどもパーシビアランスは99%以上の確率で安全に着陸するでしょう」

無事に着陸できたら、クレーター内の岩石や堆積物の中から、古代の生命の痕跡を探す。現在のジェゼロ・クレーターの環境は非常に寒くて過酷だが、過去に水が作り出した地形が残っているため、昔は温暖で水が豊富にあったことがわかる。パーシビアランスには、岩石を調べるための高度な分析機器が搭載されているほか、10年ほど後に火星にやってくる別の探査機が回収して地球に持ち帰るためのサンプルを収集・保管するための道具も積み込まれている。

「厳選されたサンプルを少量でも実際に地球に持ち帰ることができれば、惑星探査の進め方は大きく変わることでしょう」と、米ジョージタウン大学の惑星科学者で、古代の生命の痕跡を研究しているサラ・スチュワート・ジョンソン氏は語る。

科学者たちは昔から地球外生命を探し求めてきたが、宇宙生物学がきちんとした科学として認められるようになったのは、つい最近のこと。今やこの分野の研究はかなり盛んになっている。今回のパーシビアランスは火星をめざすが、将来は木星や土星の凍った惑星が目的地になるだろう。そこでは今も生命が繁栄している可能性がある。

NASAのマーズ・リコネッサンス・オービターが撮影したジェゼロ・クレーター。火星探査車「パーシビアランス」は、ここに着陸する。古代の火星では、豊富な水が水路を切り開き、堆積物を運び、三角州や湖沼を形成していた。このような環境に生命が存在していたとすれば、今回の探査で、クレーターの岩石中に生命が残した痕跡を見つけることができるだろう(IMAGE BY NASA/JPL-CALTECH/ASU)

パーシビアランスのチームは、火星の生命が存在した証拠、決定的とは言えないまでも、それらしい何かを発見できる可能性が高いと考えているが、このミッションの副プロジェクト科学者であるケイティー・スタック・モーガン氏は、今回の探査で見つからなくても、将来サンプルが回収されて地球に戻ってきたときには、説得力ある証拠が得られるだろうと信じている。「たとえ生命の痕跡が見つからなかったとしても、ほかの惑星に生命が存在するための条件について、興味深い事実が明らかになります」

生命の痕跡、こうして探す

直径45キロのジェゼロ・クレーター内には、古代、クレーター湖に水が流れ込み形成された、広大な三角州の跡が残っている。太古の火星に生命がいたなら、まさにこのような場所に痕跡を残しているはずだ。

太古の火星は、現在とはまったく異なる惑星だった。これまでの探査データによると、この惑星が誕生してから最初の10億年間は厚い大気に包まれていて、少なくとも周期的に温暖で湿度の高い時期があったようだ。

実際、約35億年前までは、火星の表面には多くの湖や川があった。今でも、川が刻んだ谷や、川の流れで角がとれた石、水中で形成された鉱物など、水の作用を物語る証拠を目にすることができる。

約38億年前に形成されたジェゼロ・クレーターにはかつては水がたまっていて、その水深は約250メートルもあった。クレーターの縁の岩石は約40億年前とかなり古いもので、クレーター内の岩石はこれより5億年ほど新しい。広い時間間隔のある岩石記録を調べることで、火星全体の気候の大きな変化を垣間見ることができるかもしれない。

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人は火星で生活できるのか
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