幕開けは「ショー・マスト・ゴー・オン」(井上芳雄)第74回

日経エンタテインメント!

お客さまは前後左右1席ずつ空けて座っているので、劇場キャパの半分の数。歓声などは基本的に上げられないのですが、その分大きな拍手をしてくださいます。マスクを着けているので目しか見えませんが、笑い声はしっかり聞こえてきます。前と全く同じではないけど、舞台の上と客席は同じようにつながっていて、ちゃんと伝わるという手応えがありました。やっていることは、基本的に今までと変わらないんだなと。

『SHOW-ISMS』(『DRAMATICA/ROMANTICA』バージョン) 写真提供/東宝演劇部、8月2日(日)18時45分開演 LIVE映像配信のみで追加公演『DRAMATICA/ROMANTICA復活祭 ISMS Version』

これまでとの違いは、ライブ映像配信が加わったこと。テレビや映画の仕事のように、カメラの向こうにたくさんのお客さまがいるという感覚は、舞台上では今までほとんど意識したことがないので、まだ慣れません。開演前や終演後に配信用のトークもしました。聞いた話では、視聴の手続きが複雑だったり、情報が行き渡ってなかったり、早くから視聴券を買う必要がなかったりで、どのくらいの人が配信で見てくれるか、事前に把握しづらかったそうです。今後の課題として、配信のお客さま向けの特典や企画も大事だということがわかりました。

前より手間がかかったり、やることが増えているのは確かです。でも、いつまで続くかわからないけど、それに慣れていかないといけないですね。一方、感染予防で幕あいの休憩時間をつくらないため、公演は2時間程度、1日2回公演もありませんでした。今までより時間が短く、公演回数も少ないという点で肉体的には楽です。それで配信を含めて、これまで以上のお客さまに見ていただけるのなら、新しい可能性が開けるかもしれません。

手探りではありますが、今はとにかくできることをやるだけ。数カ月前の一斉に公演中止という状態とは違って、演劇をやれる状況にはなっているけど、感染者が出たらすぐにやめないといけないという、また違う段階に入っています。世の中全体もまだまだ踏ん張らないといけない状態が続くので、そのためのエネルギーを自分たちが少しでもお届けできるならうれしい、という気持ちで舞台に上がっていました。

8年前とのいろんな違いを実感

演出の小林さんには、初日が終わって「この5人がまた集まってよかった」と言われました。8年前にファイナルと銘打っていたし、物語のミュージカルだと何年ぶりかの再演はありますが、ショーの形式で8年たっての再演はあまり聞きません。僕たちも「またやろうね」とずっと言っていたわけでもないし、僕と知念さんが結婚するといった関係性の変化も含めて、もう一度やることを皆はどう感じるだろうと、小林さんは考えたと思います。でも、それを伝えたときに、5人とも「やりたい」と言って、また形にすることができて、うれしかったのでしょう。劇場を再開するにあたって、皆がまた集まったのも縁だし、作品自体に力があったからこそ実現したのだと思います。

『DRAMATICA/ROMANTICA』は「声を重ねる」のがテーマじゃないかと感じています。普段は歌でメインをとることが多いそれぞれですが、この公演では陰でコーラスをしたり、歌の途中でほかの人たちが入ってきたり、何かしら皆がかかわって1曲を歌います。5人だから奏でられる音や成立する空気があって、それは得がたいもの。この時期に、また5人が一緒になって歌うことに特別な意味があると思いました。

初日から何日かたつと、それまでの緊張が解けて、みんなリラックスして歌うようになりました。端から見ていてとてもうれしかったので、トークでそれをしゃべったら、聖子さんから「お父さんみたいだね」と言われました。思い起こすと、8年前はそんな感じではなかったように思います。切磋琢磨(せっさたくま)というかライバルみたいな感じで、「この歌は自分の歌だ」みたいなところもあった気がします。けど今は、コロナ禍の影響もあるでしょうが、「我が、我が」となってもいいことはない。『マトリョーシカ』のキャストの方も含めて、皆で力を合わせて、いいものを届けて劇場を再開させようという気持ちがまずありきだったので、それは今までにない空気でした。

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