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NIKKEI STYLE キャリア
トヨタウェイは世界を変えたか

2020/8/3

トヨタウェイは世界を変えたか

箕浦社長とのミーティングの日がやってきました。私はとても緊張しながら、A3の用紙1枚にまとめた手書きの報告書を提出しました。ご存じかもしれませんが、トヨタでは報告書をA3の用紙1枚にまとめることが原則になっています。すると社長は私の報告書を読むなり、こう言いました。「鉛筆で書いた報告書をそのまま見せてくれてありがとう。これはまさに大野耐一(1912-1990。トヨタ生産方式の理論を体系化した第一人者。トヨタ自動車工業で副社長をつとめた)の教えそのものなんだよ」

思考プロセスわかる手書きの報告書

佐藤 なぜ鉛筆書きの報告書が望ましいとおっしゃったのでしょうか。パワーポイントで清書する時間がムダだと考えたのですか。

ボニーニ おそらく鉛筆書きの下書きのほうが、私の思考のプロセスを見ることができるからだと思います。トヨタではプレゼンのフォーマットを整えることはそれほど重要視されていなかったのです。

社長は私の報告書に目を通すと、すぐにいくつかの質問をしました。私はそれらの質問に答えたあと「残りの数週間でこういうことをやるつもりだ」と伝え、ウェストバージニアに戻りました。

その後、ウェストバージニア工場で引き続き改善活動を続けていると、ある日突然、社長が現場にやってきました。社長は私が担当している生産ラインに向かって歩いていき、立ち止まり、数分間、私の担当するラインの仕事ぶりを見ていました。それはまるで私の報告書どおりに改善が進んでいるかどうかを確認しているかのようでした。しばらくすると社長は私に向かってこう言いました。「ジェイミー、君の努力の成果がよくわかったよ。改善の結果が見てとれる。でもこのラインで働いている従業員の手の動きにもう少し注目してほしいんだ。あのメンバーとあのメンバーとあのメンバーの手の動きを見てみて」

言われたとおり彼らの手の動きに注目してみると、他のメンバーとくらべて余分な動きをしていることに気づきました。その要因は生産機器を動かすためのスイッチの場所が適切でなかったことでした。社長が去ったあと、私はあっけにとられました。10分間見ただけでなぜここまで詳細に把握できるのだろうかと。私は6週間毎日見ていても気づかなかったのに……。社長の細部を見通す眼力とリーダーシップスキルには驚くばかりでした。

※「トヨタウェイは世界を変えたか」は毎週月曜日に更新、8回にわたって連載します。次回は8月10日の予定です。

ジェイミー・ボニーニ Jamie Bonini
 トヨタプロダクションシステム・サポートセンター(TSSC)バイスプレジデント。1985年プリンストン大学卒業。87年カリフォルニア大学バークレー校大学院修了(MS)。92年マサチューセッツ工科大学大学院修了(MS)。ダイムラー・クライスラーにて様々な要職をつとめたのち、2002年トヨタ・モーター・エンジニアリング・アンド・マニュファクチャリング・ノース・アメリカ(TEMA)入社。トヨタ・モーター・マニュファクチャリング・ケンタッキー(TMMK)などを経て現職。

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