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トヨタウェイは世界を変えたか

2020/8/3

トヨタウェイは世界を変えたか

働き手の動き、秒単位で把握

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。最新刊は『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』。

佐藤 ダイムラー・クライスラーの生産現場ともかなり違っていましたか。

ボニーニ 違っていました。トヨタの生産現場では徹底的に問題や改善点に焦点をあわせます。「問題を見つけ、問題を解決せよ」というのがトヨタの組織文化です、これがクライスラーとは全く違っていました。

次に細部へのこだわりです。当時のクライスラーの最大の課題は小さな改善を数多く積み重ねていくことでしたが、クライスラーはトヨタほど詳細にまでオペレーションプロセスをチェックしていませんでした。トヨタの人たちの細部へのこだわりには本当に驚かされるばかりでした。

それを最初に教えてくれたのが福永氏です。福永氏はラインで働く人たちの動きを秒単位で把握し、改善点を見つけることができる人でした。ウェストバージニア工場で研修を受けていたときのこと。福永氏が私に「ジェイミー、あそこに立って、あの従業員の動きを見てみて」と言いました。私がその従業員をじっと見ていると、「ジェイミー、何が見える?」と。そのときはわかりませんでしたが、すでに彼には多くの改善点が見えていて、私の能力を試していたのです。このように福永氏は、私に細部まで気を配ることの大切さを教えてくれました。本当に素晴らしい師匠でした。

佐藤 研修中は他にも驚いたことがあったそうですね。

ボニーニ 2002年にTEMAの社長面接を受けたときのことです。当時の社長は箕浦輝幸氏でした。面接の終わりに箕浦社長に「もし光栄にもトヨタに入社することができたら、トヨタ生産方式を直接私に教えてくれませんか」と思い切って頼んでみると、社長は「もちろんいいですよ。それは私の責任でもありますから」と快諾してくれました。

この面接の後、私は採用され、先程のウェストバージニアの工場で改善活動の研修を受けることになるわけです。約束通り、社長は指導してくれることとなり、研修の報告書をA3の用紙1枚にまとめ、社長に提出することになっていました。研修中は鉛筆書きで自らの改善活動を記録し、報告書の下書きを作成していきました。

研修を始めて数週間後のある金曜日、師匠の福永氏から突然「ジェイミー、来週、社長とミーティングをすることになったから、そこで研修の報告書を提出して」と言われました。「そんなの無理ですよ。こんな報告書を見たら、社長はきっと私のことを『できないやつ』だと思うでしょう。ただ基本的な改善活動を記録しているだけなんですから」と私。すると福永氏は「まあ落ち着いて。大丈夫だから。今手元にある報告書を見せて」と言いました。ところが私がもっていたのは鉛筆で書いた下書きのみ。しかもところどころ消しゴムで消したあとも残っていて、読みづらくなっています。しぶしぶ報告書を見せると「このままでいいよ。ジェイミー、これを社長に提出しよう」と福永氏。「これはただのなぐり書きです。これを社長に見せるわけにはいきません。パワーポイントで清書しなくては!」と再び抵抗すると、福永氏はもう一度、「いやいや、このままでいいんだよ」と言いました。

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