「焼き肉カルチャー」を家庭の食卓に呼び込んだ「たれ」の出現

民間調査会社インテージの「SRI(全国小売店パネル調査)」データによると、エバラ食品は家庭用の焼き肉用たれ市場で47.2%と国内トップシェアを誇る(2019年4月~20年3月累計販売金額シェア)。同じ肉料理用の「すき焼のたれ」でも同62.5%を占める。野菜調味用の「浅漬けの素」でもシェアが同46.9%に達していて、新市場を切り開くチャレンジが高いシェアにつながっていることがわかる。

エバラ食品が成功した新市場開拓の代表例といえるのが、1968年に発売した「焼肉のたれ」だ。戦後、焼肉店が徐々に全国で広がりを見せ始めたのをみて、「家庭にも焼き肉を持ち込めないか」と、たれの商品開発に乗り出したのが、エバラ食品の創業者である故・森村国夫氏だ。

「いわゆる『団塊の世代』がまだ若かった時代です。焼肉店で親しみ始めた肉食を『もっと手軽に食べたい』という潜在ニーズもあったと思います。当時は豚肉が中心で、まだ臭みも残っていたうえ、硬い肉が多かったのです。そこで、硬い肉をおいしく食べてもらうには『たれ』が必要と考えていました」(清水部長)

エバラ食品(旧社名「荏原食品」)は1958年に創業した。ソースやカレー粉を製造していたキンケイ食品工業の関連会社として発足。キンケイ食品は国夫氏の兄である森村武次郎氏が興した会社で、国夫氏もキンケイ食品から荏原食品に移った。

「黄金の味」シリーズで32年ぶりとなる新商品「黄金の味 さわやか檸檬(レモン)」(右端)が加わった

「焼肉のたれ」が発売された68年に現社名に変更するまでは、即席めんのスープや「札幌ラーメンの素」など業務用の調味料が主流だった。森村国夫氏は「東京や横浜にあった、どちらかというと大衆的な焼肉店を数十軒も食べ歩き、家庭で食べても飽きのこない、バランスの良い味を求めて研究開発を進めたそうです」と、社内で国夫氏に接する機会のあった最後の世代といわれる清水部長は当時を解説する。

臭みがあり、食感が硬めの肉でもたくさん食べられるようにと、工夫を凝らした。具体的には香味野菜や油などを加え、「焼肉のたれ」が完成した。

マーケティングにも詳しい清水部長は「世の中ではまだ目新しい商品でありながら、コミュニケーションコンセプトも秀逸だったと思います。当時、他社はバーベキューソースの延長線上で商品を開発していましたが、当社は『人気焼肉店の秘密は、たれのうまさ』と分析し、しょうゆベースの『たれ』というコンセプトとネーミングで勝負しました」と、発売当時の戦略を振り返る。

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精肉店を突破口にファンづくり、関西では苦戦
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