トヨタの強みは日本文化から強い影響

佐藤 「トヨタウェイ」は日本の伝統的な文化とも関わりがあると感じますか。

プラット トヨタの強みは日本の強みに由来すると思います。トヨタは世界中で事業を展開するグローバル企業ですが、その企業文化は日本文化から強い影響を受けています。特に例として思い浮かぶのが次の3点です。1つめは細部へのこだわり、2つめは「常に私には改善すべきことがある」と考える謙虚さ。これらは日本のものづくり文化の伝統から派生していると思います。そして3つめは社会貢献を大切にしていることです。

日本人がいかに社会を大切にするかを伝えるのに、ちょっとおもしろい話があります。昨年末、日本人の同僚たちを初めて自宅に招いて忘年会を開きました。パーティーが始まる前は「日本人は驚くほど整理整頓好きな国民」だと思っていました。ところがパーティーが始まるとすぐに、その思い込みが間違いであったことに気づきました。私の家がどんどんめちゃくちゃになっていったのです! 子どもたちはそこら中を走りまわり、食べ物は床に落ちている……。「これは私の想像していた日本人の姿ではない」と内心思いました。

ところがパーティーが終わりに近づくと、それまでの様子が一変。参加していたすべての日本人が、掃除と後片付けを始めたのです。終了時刻の1分前には私の家はすっかり元通りに。むしろ前よりもきれいになっているほどでした。私の妻は「日本人の同僚ならいつでも連れてきていいわよ」とごきげんでした。

彼らが後片付けをしてくれたのは、日本にはパーティーの主催者や参加者を思いやる文化があるからだと思います。日本人の皆さんにとっては当たり前のことかもしれませんが、日本の国外ではこれはとても珍しいことなのです。他人を思いやる文化は、日本の財産だと思います。そしてトヨタがその文化を受け継いでいることは、将来、とても大きな強みになると思います。

人に生きがいを感じてもらうテクノロジーとは?

佐藤 プラットさんにとってトヨタウェイとは何ですか。

プラット これはすばらしい質問ですね。私にとってトヨタウェイは「生きがい」です。毎朝起きて、TRIのオフィスに行くのは、「きょうもより安全な自動車をつくることに貢献し、退職した高齢者がより矜持(きょうじ)をもって生きてもらえるような技術を開発することができる」と感じることができるからです。

私はロボティクスの分野に長く携わってきたので、「人々の仕事は将来どうあるべきか」について深く考えてきました。多くの人たちは「AIとロボットが人の仕事を奪ってしまう」と危惧しています。ここで問題となってくるのが「人間が働くことに時間を割かなくてもよくなったら、何に人間は生きがいを見いだすのか」という点です。その世界において、人々に生きがいを感じてもらえるようなテクノロジーとはどのようなものなのか。そのようなテクノロジーを、我々はどのように創出していくべきなのか。

私が今懸念しているのが、多くの企業があまりにもテクノロジーそのものに焦点を置きすぎていることです。「人間が料理をしなくてもいいように、料理ロボットをつくりましょう」というような発想で開発を進めているのです。でも料理ロボットに料理をつくってもらって幸せでしょうか。最初は「時間が節約できた」と思っても、そのうちむなしくなるかもしれません。なぜなら人間は家族のために心をこめて料理をつくる過程に幸せを感じるものだからです。私たちは人々の生活をよりよくする技術を開発したいと願っています。それは決して人間の幸せを奪ってしまうような技術であってはなりません。

トヨタは人間中心にものごとを考えてきた企業です。トヨタには本当の意味で人間の生活をよりよくするテクノロジーを創出できる能力があります。それは人々により充実した人生を送ってもらえるようなテクノロジーです。これこそ「トヨタウェイ」の本質であり、私が心から共感している点です。今後もトヨタの一員として人間性を尊重した技術を開発していきたいと願っています。

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ギル・プラット Gill A. Pratt
トヨタ・リサーチ・インスティテュート最高経営責任者(CEO)。トヨタ自動車エグゼクティブフェロー(執行役員)。専門分野はロボット工学および神経形態学的システム。ロボティクスやAIが社会にもたらす影響についても研究。1990年マサチューセッツ工科大学博士課程修了(PhD)。マサチューセッツ工科大学准教授、オーリン工科大学教授、同校副学長等を歴任した後、2010年アメリカ国防総省国防高等研究計画局(DARPA) 国防科学戦術技術室プログラム・マネージャーに就任。2015年トヨタ自動車入社。以降、同社にて様々な要職を務める。

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