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トヨタ・リサーチ・インスティテュートの社内ミーティングで話すギル・プラットCEO

トヨタ・リサーチ・インスティテュートの社内ミーティングで話すギル・プラットCEO

日本を代表する企業として世界の注目を集め続けるトヨタ自動車。とりわけその価値観の中核にあるトヨタ生産方式(TPS)は、ハーバードビジネススクールをはじめ多くの経営大学院で教材となるなど、世界に与えた影響は大きい。米国のビジネス最前線でTPSと向き合うキーマン3人に、作家・コンサルタントの佐藤智恵氏が話を聞いた。最初のキーマンはトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)最高経営責任者(CEO)としてトヨタの人工知能(AI)開発を束ねるギル・プラット氏。3回目はトヨタウェイとイノベーションとの深いつながりを語る。

<<(中)人の能力を高め、心を動かす トヨタが目指すAI

AIにできないこととは

佐藤 日本では「人間の仕事の多くはいずれロボットやAIに取って代わられる。自分の仕事も奪われてしまうのではないか」と不安に思っている人がたくさんいます。AIに「できること」と「できないこと」はそれぞれ何でしょうか。

プラット まずはじめに、現在「AI」と呼ばれている技術やシステムの総称として「アーティフィシャル・インテリジェンス(人工知能)」という言葉が使われていることが誤解を招いていると思います。なぜなら「インテリジェンス」と表現されていると「人間的なもの」を思い浮かべてしまうからです。ところが実際のところ、AIは人間の知能とイコールではありません。

トヨタ・リサーチ・インスティテュートCEO ギル・プラット氏

トヨタ・リサーチ・インスティテュートCEO ギル・プラット氏

私たちの脳には大きくわけて2つの機能があります。頭の後ろ半分には世界を知覚する機能、前半分には思考・判断する機能が備わっていて、前側は後ろ側から情報を得て思考・判断します。

AIシステムが優れているのは視覚情報を処理する能力です。つまり私たちの脳の後ろ側の機能と同じような役割を果たすことはできるわけです。もちろんAIは人間と違って疲労を感じることがないですし、その情報処理能力はとても高いといえます。ところが私たちの脳の前側の機能、つまり思考・判断・認知するための機能を果たすことは一切できません。これはまぎれもない真実なのです。

AIシステムができるのはいわゆる「パターン・マッチング」(複数の文字列や図形、ファイルなどを比較し、同一または類似したものであるかどうかを調査すること)です。インプット情報の中にパターンを見いだし、どういうカテゴリーかを分別し、アウトプットすること。これはできます。

ところが思考には、パターン・マッチングをはるかにこえる能力が必要です。たとえば私は今、佐藤さんからの質問に答えていますが、私は質問をただ耳で聞くだけではなく、「この質問の真意は何だろうか」と考え、質問の意味をきちんと理解した上で答えています。ところがAIシステムは真の意味で「理解」することができないのです。

機械はパターンを認識できても思考できない

佐藤 ハーバードビジネススクールの教授は「AIはトヨタウェイ(全世界のトヨタで働く人々が共有すべき価値観や手法)を学べない」と言っていました。これについてはどう考えますか。

プラット 工場での作業の多くは同じ仕事の繰り返しのように見えるため、多くの人々は「これなら機械にでもできるのではないか」と考えてしまいます。ところがほとんどの場合、従業員は人間ならではの認知機能を使い、迅速に判断しながら仕事を行っています。大きな問題が生じればアンドンのひもを引っ張りますが、そこまでいかない小さな誤差については自ら判断して修正しているのです。

人間が賢いのは思考することができるからです。「どうしたら明日もっとうまくできるだろうか」と考えることができるから品質管理活動(QC活動)も行うことができるのです。思考できないAIシステムが、自ら品質を向上させる活動を続けることは不可能です。

これまで多くの自動車メーカーが「賢い人間」を「思考できない機械」に代替させようとしてきました。ところが機械はパターンを認識できても、思考はできません。テスラのCEO、イーロン・マスク氏は「テスラの行き過ぎたオートメーションは間違いだった。もっと正確に言えば、人間の能力を過小評価したのが間違いだった」(参照:https://www.cnbc.com/2018/04/13/elon-musk-admits-humans-are-sometimes-superior-to-robots.html)とおっしゃっていましたが、それはまぎれもない真実だと思います。

トヨタウェイの根底には人間社会や人間の能力に対する深い理解があります。「思考できないAIがトヨタウェイを実践できない」というのは、まさにそのとおりだと思います。

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