だが、大学がどこまで過去に挑戦すべきかという議論は、オックスフォード大学の枠を超えて広がりつつある。

オックスフォード大学副総長のルイーズ・リチャードソン氏は、英国のBBCテレビに対して次のように語っている。「私個人としては、自分たちの歴史を隠すことが啓発への道ではないと考えています。この歴史を理解し、それが作られた背景や、当時の人々がなぜそのように考えていたかを理解する必要があります」

「オックスフォード大学には900年の歴史があります。そのうち800年もの間、大学を運営する人々は女性には教育を受ける価値がないと考えていました。こうした人々を批判すべきでしょうか。個人的にはそうは思いません。彼らは間違っていたと私も思います。けれど、彼らは彼らの時代という背景の中で裁かれるべきなのです」

クリストファー・コロンブスに関しても同様の論争がある。米オハイオ州コロンバスでは、市庁舎前に立つコロンブス像がまもなく撤去されることになった。1955年にイタリアのジェノヴァから寄贈されたものだ。アンドリュー・J・ギンザー市長は、多様性を支持し、全ての人種を受け入れる町の姿勢を示すために像を撤去し、倉庫に保管すると発表した。

「多くの人にとって、コロンブスの像は父権社会、抑圧、分断の象徴でした。それらはこの偉大な町を象徴するものではありません。私たちは、もはやこの醜い過去をひきずって生きることはありません」

では、今後コロンブスはどのように記憶されるべきだろうか。東アジアの豊富な資源を求めていたコロンブスは、その途上でアメリカ大陸を「発見した」とされてきた。学者たちは、コロンブスや彼の船員たちが先住民たちにレイプや奴隷化といった非人道的な扱いをしていたことを認めながらも、「新大陸」の父としての功績にばかり焦点を当ててきた。

米ハワード大学の歴史学教授アナ・ルシア・アラウホ氏は、「コロンブスは、ヨーロッパ人によるアメリカ大陸征服を象徴する存在です。その結果アメリカ先住民が大量に虐殺され、奴隷にされました。その人口が減ると、今度は多くのアフリカ人がアメリカ大陸へ連れてこられたのです」と語る。

「奴隷制度のこと、大西洋をまたいだ奴隷貿易のこと、そしてアフリカ系子孫の歴史を、義務教育や大学で教えることを義務化すべきだと思います」と、アラウホ氏は言う。「米国は人種的に分離されたままです。白人は、奴隷制度とは黒人の歴史ではなく、米国の歴史であるということを認識すべきです。それは、被害者と加害者の歴史であり、過去の残虐行為を繰り返さないためにも知る必要があることです。たとえそれが、どんなに目をそむけたくなるようなものであっても」

米バージニア州リッチモンドに立つ南軍司令官リー将軍の像の空撮写真。1890年に建てられた像は、まもなく撤去される(PHOTOGRAPH BY JOHN BIGGS)

100年後の世界は、今起こっていることをどう評価するだろうか。今新しく育っている若い世代の学者や社会活動家たちは、抑圧と人種的階級制度への挑戦者として知られることになるかもしれない。

哲学者であり詩人でもあったジョージ・サンタヤーナの言葉を借りれば、過去を忘れた者はそれを繰り返すことになる。過去の文化が行ってきたことを研究する者にとっては、心に重くのしかかる格言だ。

「歴史家として、過去が消されることに危機感を覚えます」と、バージニア大学のゲインズ氏は言う。「歴史をきれいに拭い去ってしまえば、これまでの人類の歩みや進歩が忘れられてしまうかもしれません。米国が白人至上主義の上に築かれた国であり、その結果に今も苦しめられているということを、後の世代は理解しなければなりません」

次ページでは、論争や分断の対象となった像や絵画を写真で見ていこう。