コロナ失業、長引く気配 リーマン超す消費冷え込み
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、政府などが要請していた様々な制限がほぼ解除されました。しかし、4~5月の緊急事態宣言期間中、外食や旅行といった外出を伴う支出は大きく落ち込み、「需要蒸発」という言葉をよく耳にしました。今後、復活できるのでしょうか。
コロナ禍の影響は幅広い品目に及んでいます。例えば花の売り上げも急減しました。卒業式、歓送迎会や各種イベントが中止となり、需要が落ち込んだためです。東京都中央卸売市場によると、都内の市場を合計した観賞用「花き」の売上高は3月が前年同月に比べ約18%減り、4月は同約41%減、5月は同約24%減となりました。今年1月と2月は前年を上回っていましたが、苦境に陥っています。
総務省の家計調査も、需要蒸発を裏付けています。2人以上世帯の4月の消費支出は前年同月に比べ、物価変動の影響を除いた実質で約11%減りました。パック旅行費、映画・演劇の入場料、遊園地の入場料・乗り物代や飲酒代の減少率はいずれも9割を超えました。
東京都立大学の脇田成教授は2008年のリーマン・ショックと比較しながらコロナ禍の日本経済への影響を分析しています。リーマン・ショック後、企業の売上高は前年比で15%減の状態がほぼ1年続きました。コロナ禍のもとで、非製造業の1~3月期の売上高は前年同期に比べ約6%減りました。コロナの影響が広がった4~6月期は2割減、その後は1割減と仮定しても非製造業は年率12%の減少となり、企業の損益分岐点売上高に近づくと予測します。
「世界経済の低迷で外需が減少する可能性が高く、今後、製造業の売り上げも大きく減る。今年度いっぱいでコロナが収束しても、リーマン・ショック並みとなる」と心配します。
雇用への悪影響も出始めています。リーマン・ショック前に4%未満だった完全失業率は5%台に上昇し、元の水準に戻るまでに約5年かかりました。脇田氏は「コロナ禍で失業率は最終的に5~6%まで上昇する可能性が高く、今回は5年では元の状態には戻らない」とみています。そこで、国による家計への所得分配を議論すべきだと主張します。
エコノミストの間では「個人消費は4、5月が大底となり、徐々に回復する」(第一生命経済研究所の小池理人副主任エコノミスト)との見方が広がっています。ただ、感染を予防しながらの経済活動には制約が生じ、「回復のペースは緩慢」と先行きには慎重な見方が大勢です。短期と中長期の両方の視点を忘れずにコロナと闘っていくしかありません。
脇田成・東京都立大学教授「政府、所得分配の議論を」
コロナ禍は日本経済にどんな影響を及ぼすのでしょうか。様々な統計データや経済理論を活用してマクロの経済現象を分析する東京都立大学の脇田成教授に、今後の見通しと政策課題を聞きました。
――日本経済の現状をどのようにみていますか。
「過去の経済危機と比較すると現状をよく理解できます。1990年代のバブル経済の崩壊後、不良債権問題が発生して長期停滞に陥りました。2008年のリーマン・ショックでは輸出が急減し、外需の低迷が経済の足を引っ張りました。11年の東日本大震災では原発事故で移動が制限され、国内のサプライチェーン(供給網)が寸断されて短期の供給ショックが起きました。今回はまず、消費が激減し、リーマン・ショックと同様な外需の急減が予想されます」
「個人消費が1年程度で回復すればリーマン・ショック並みといえますが、世界経済の低迷が続くと外需がさらに落ち込む可能性があり、予断を許しません」
――中長期の課題は。
「金融部門に危機が波及するかどうかを注視しています。現在、多くの企業が資金繰りに窮しています。もともと企業は売り上げの2カ月分に相当する手元資金を確保できればよいとされているので、現金が尽きる企業が続出しても不思議ではありません。政府が企業の資金繰り支援に注力しているのは正しいでしょう。ただ、一時的な資金繰りの危機(流動性危機)を乗り切ったとしても、その後で、中長期的に支払い能力があるかどうかが問われます。この段階で、財務余力が乏しい企業との取引が多い地域金融機関の経営問題が浮上する可能性もあります。企業の資金需要減と日銀の低金利政策のもとで地域金融はもともと厳しい収益環境にあり、コロナ禍が追い打ちをかける場合には公的な関与も必要になるでしょう」
――日本企業はこれからどう行動するのでしょうか。
「リーマン・ショック後、企業は財務面で防衛志向を強め、賃金という形で家計に十分に還元してきませんでした。コロナ禍でさらなる防衛に走ると雇用情勢も悪化し、長期的に経済の低迷が続いてしまいます。コロナ禍はオンライン会議をはじめとするソフト開発を加速させるとの見方もあります。確かに消費者の利便性は高まっていますが、IT(情報技術)関連産業の利益には必ずしも直結しません。その分、失われた交通機関や運輸業などの収益の落ち込みをカバーできず、IT関連で働く人への分配を増やす原資も少ないのが実態です」
――政府には、どんな政策対応を求めますか。
「資本主義経済では、生産への貢献に応じて賃金が決まるルールになっています。ところが、コロナ禍のもとでは従来のルールが通用しなくなっています。経済全体の生産能力は従来のままで、必需品は供給できるため、生産能力を増やす仕事は求められないのです。生産能力を有効活用するために政府が所得の分配を実行するしかありません。今回は国民に一律10万円の特別定額給付金を配りましたが、さらに、国民に直接お金を配るベーシックインカム(最低所得保障)がもたらす安心と、市場経済が達成してきた生産の効率性の両立を目標とする所得分配の議論を進めるべきでしょう」
(編集委員 前田裕之)
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