「寄り添う音」にニーズ 広がるスローサウンドエムズシステム社長 三浦光仁氏(下)

エムズシステムの三浦光仁社長は「試聴室はあえて簡素にした」と笑う
エムズシステムの三浦光仁社長は「試聴室はあえて簡素にした」と笑う

円筒形のスピーカー1本だけで鳴らす、エムズシステムのサウンドは「やさしい音」を求める聞き手の間でファンを増やしてきた。三浦光仁社長は「東日本大震災で消費者のマインドが変わった」と振り返る。エムズ独特の「人に寄り添う響き」は、フレンドリーな音で気持ちを整えるという暮らし方を、家ごもりライフに浸透させつつある。

<<(上)コロナでも売れた1本スピーカー 包み込む響きの引力

一般的なスピーカーと、エムズの商品を聞き比べると、通常タイプは音がまっすぐ自分に向かってくるような印象を受ける。音量を思い切って上げれば、違いはさらに際立つ。通常のスピーカーでは、音が素肌に刺さる、物理的な衝撃を感じる。「音符に矢印が乗っかって、自分に飛んでくるかのような、攻撃的できついイメージ」と、三浦氏は説明する。

一方、エムズのサウンドは「包まれる」というのが最も近い感覚だ。一般的なスピーカーは左右それぞれから音が出ていることがはっきり分かるが、エムズのほうは空間全体が鳴っているような響き具合で、スピーカーと自分の間に直線的な「矢印関係」を感じない。「空間を音で満たすといった、音の伝わり方。だから、押しつけがましく聞こえにくい」(三浦氏)

同じ音量でも、音の性質次第で、印象は大きく異なる。たとえば、大音量にあたる同じ100デシベルの音でも、滝に流れ落ちる自然な水音なら、近くでピクニックが楽しめるが、工事現場の掘削音は耐えがたい。「周囲になじんで広がる自然音はうるさく感じにくいけれど、直進して耳にぶつかってくる人工的な音には不快感や違和感を感じがち」と、三浦氏は違いを指摘する。

エムズのスピーカーは、ピアノやバイオリンなど、生音を奏でる楽器と同じく、1カ所から音を出す(2本に分離可能な商品は別)。一般的なステレオスピーカーは左右の2本から音が出る。三浦氏は「もともと1カ所で発している音を、2本のスピーカーに分けるのは、自然な処理とは言えない」とみる。人間にとっての聞こえ具合を数値の計測から把握して、設計にフィードバックするという科学的な手法そのものが「心地よさという本来のゴールからずれてしまう理由」とみる。

しかも、ステレオ式は決まったポジションで聞くよう、聞き手の居場所を固定する。2本のスピーカーと聞き手が構成する三角形の頂点からずれると、立体感やバランスが損なわれやすい。「居場所を固定されるのは、聞く人にとって窮屈。機械がオーナーに居場所を指図するのは奇妙」と、三浦氏は笑う。エムズのスピーカーは部屋のどこでもほぼ同じように聞こえるというのが魅力の1つになっている。

ステレオ式スピーカーを購入し、実際に自宅へ迎えた際、試聴室での聞こえ具合とは異なって聞こえることが珍しくない。量販店や専門店が用意している試聴室では、音響面で理想的な環境があらかじめ練り上げられている。試聴者が立つ位置も、専門家がベストポジションに設定済みだ。しかし、自宅ではそうはいかない。「ステレオ式の本格スピーカーを購入した後にがっかりする人が出るのは、理想的な設置のハードルが高いから」と、三浦氏はみる。

エムズの場合は1本だから、ステレオ式に比べて、置き方の制約は小さい。「床や家具の上に置くのが一般的ですが、天井からつり下げてもOK」(三浦氏)。インテリアとしても見栄えのする円筒形なので、オーディオ機器から離れた位置に置くという選択肢もある。「極端なことをいえば、部屋の隅っこや物陰に置いても、空間全体が鳴る」(三浦氏)。部屋のレイアウトを邪魔しない点でも聞き手に寄り添ってくれる。

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