将棋と落語は似たセンス 藤井七段に届けたい言葉遊び立川談笑

「将棋の殿様」という古典落語もあります。将棋に凝ったお殿様が、文句が言えない家来たちを相手にわがまま三昧の対局で勝ち続ける話です。今風にいうならパワハラ将棋。そして最後には立派な家来に痛烈なしっぺ返しをくらいます。

この落語を初代三笑亭可楽(さんしょうてい・からく)が将軍・徳川家斉の前で語った、などという逸話が残っていますが、私は眉唾だなあと思っています。初代可楽は200年ほど前の江戸落語草創期の人。初代立川談笑も同じころ活躍しました。

しかたなかばし神田橋

話は変わりますが。素人が将棋を指しながら何事かつぶやく。あれが大好きです。盤面に集中しながら、その時々の気分で適当なことを口に出す。「おおっと、そう来ましたか。それならこちらは、思い切って……」なんて。いい年したおじさんたちが妙に無邪気に見える瞬間でもあります。そしてそんな時に使われる定番のセリフがあるのです。江戸前の軽口。さしたる意味もないのに何か言いたいだけ。バカバカしい中から、大好きなものを紹介します。

「あららー。それ見たことか。『みたかなかのきちじょうじ』、と」

三鷹、中野、吉祥寺。中央線づくしの軽口は意外に新しいのかもしれませんね。ずっと古いところでは、

「仕方ないな。『しかたなかばし神田橋』」

江戸では多用された軽口でした。なんなら今でも口をついて出る人がどこかにいるはずです。「仕方ない」に中橋をかけた軽口。中橋とは、早くに撤去された後も長くその存在が語られた橋だとか。中橋の「いまはもう『ない』」のイメージを引きずりつつ、まるで関係のない神田橋まで引き連れてくる。いわゆる「ノリ」です。いいフレーズ。軽口をあとひとつ。

「さあて。『どうしてくりょう、さんぶにしゅ』」

どうしようかと迷った時の決まり文句です。「どうしてくれよう」と「くりょう(九両)三分二朱」をかけています。江戸時代の金銭勘定で、10両のほんのわずか手前が9両3分2朱。「十両盗めば首が飛ぶ」として10両以上の盗みは死罪にあたる時代の「十両」は大きな区切りでした。手前ぎりぎりで寸止めするのが、9両3分2朱。生きるか死ぬかの瀬戸際っぽい言葉遊びとして面白がられたのでしょう。

最後に、江戸情緒と将棋にまつわる歌。「とっちりとん」というスタイルの歌がはやりました。言葉遊びをふんだんに取り入れた技巧的な歌詞を三味線にのせて歌う、粋で陽気な歌です。そのひとつ、「将棋のとっちりとん」を紹介します。将棋にまつわる言葉遊びが詰め込まれています。さて、いくつわかりますか?

将棋さす手を つくづく見れば
やっぱり恋路も同じこと
この手できくのか、きかぬのか
ししゃをとばして呼び出し
かくの次第をこまごまと
語れど、先の腑(ふ)に落ちず
とんだ桂馬にはねられて
無駄に使った金銀は
つまらないでは ないかいな

チャチャン、チャン、チャン!と。ええ、おやかましゅう!!!

立川談笑
1965年、東京都江東区で生まれる。高校時代は柔道で体を鍛え、早大法学部時代は六法全書で知識を蓄える。93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名、05年に真打ち昇進。近年は談志門下の四天王の一人に数えられる。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評があり、十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。

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