トヨタは世界を変えたか AIトップの心つかんだ作業着トヨタ・リサーチ・インスティテュートCEO ギル・プラット氏(上)

ものづくり好きが共通点

佐藤 プラットさんはこれまで研究者、学者として活躍してきましたが、トヨタの役員や社員の方々と共通点があるなと感じたことはありますか。

プラット ものをつくったり修理したりすることが好きなところですね。好きになったきっかけは高校時代に、自動車エンジンについて学ぶ専門学校に通ったことです。

当時、3年半で必要な科目を履修し終えてしまった私は(注:アメリカの高校は4年制)、残りの半年間、自由な時間をつかって、2つのことに挑戦することにしました。1つはアメリカで最も有名な研究所の1つ、ベル研究所でアルバイトをすること、もう1つは自動車エンジンの専門学校でリビルト(再構築)とオーバーホールの手法を学ぶことでした。この学校に通って以来、ものの修理をすることがすっかり好きになってしまったのです。トヨタの人たちと話していると、同じようなものづくりへの愛情を感じます。

トヨタに入社後、工場で実際に「トヨタのモノづくり」を学ぶ機会がありましたが、この研修はとにかく楽しかったですね。「溶接」と「塗装」はなかなかうまくできたと思いますが、「ねじ締め」はいまひとつの出来だったかもしれません。

印象的だった豊田章男社長

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。最新刊は『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』。

佐藤 トヨタの役員から感銘を受けたエピソードはありますか。

プラット そうですね……やはり豊田章男社長との最初の面接が印象深いです。自動運転車の現状や自動運転車のめざすべき安全性(完全な安全性か、それとも、よりよい安全性か)について議論していたとき、豊田社長はトヨタの考え方を次のように説明してくれたのです。「我々が完全な自動車をつくることは永遠にありません。なぜならこの世に改善できないものなどないからです。これがカイゼンの本質です」と。私はこの考え方に共鳴しました。役員も社員も皆、同じ作業着を着るのと同じような謙虚さが感じられるからです。

ところで、作業着については後日談があります。2015年にトヨタに入社することが決まり、契約書にサインしたときのことです。ある役員が「きょうからあなたもトヨタの一員です」と言って作業着をプレゼントしてくれました。それは素晴らしいサプライズでした。そのときもらった作業着はまだ大切に着ています。いまはさらに2~3着増えましたけれど(笑)。

佐藤 日本企業の制服といえば、スティーブ・ジョブズがソニーの制服に感動したという話はご存じですか。

プラット その話は初めて聞きますね。

佐藤 スティーブ・ジョブズが1980年代にソニーの工場を訪問したとき、盛田昭夫さんが皆と同じ制服を着ていたことに感銘を受け、アップルでも制服制度をとりいれようと提案したのですが、残念ながら大反対にあって実現しませんでした。でも彼は毎日制服を着るというアイデアがとても気に入って、イッセイ・ミヤケの黒のタートルネックを自分の制服として着用し続けることにした、という話です(「ペーバーバック版スティーブ・ジョブズII」講談社、2012年、126-127ページ参照)。

プラット それは面白い話ですね。私も同じくそのような日本の文化がとても気に入っていますし、トヨタの作業着を愛用しています。

研究機関でもベースは同じ

佐藤 トヨタ生産方式は、戦後、多種少量生産で安価に自動車をつくることを目的に開発された生産方式です。トヨタ・リサーチ・インスティテュート(以下、TRI)は研究機関ですので、アンドンやかんばんなどのツールを使用していないと推察しますが、トヨタ生産方式の考え方を取り入れているところはありますか。

プラット TRIではアンドンのような物理的なツールは使っていませんが、トヨタの生産工場と同じような仕組みを取り入れています。たとえばTRIには1つのテキストメッセージ、または、1本の電話ですべての実験をストップさせ、問題の真因を解決し、改善する仕組みがあります。そのベースにある考え方は生産現場と同じです。

かんばんは、何をどれだけ引き取るか、何をどのようにつくるかを迅速かつ直感的に把握できるように視覚化したものですが、TRIでもかんばんの基本となる考え方を取り入れています。物理的なかんばんはありませんが、かんばんが象徴するような「透明性」を重んじる考え方を導入しているのです。

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