「しびれる」経験、若いうちに 苦労が人間力を磨く
キリンホールディングス 磯崎功典社長(下)
キリンホールディングス社長 磯崎功典氏
キリンホールディングスの磯崎功典社長は「コストカッター」の異名を持つ。グループ会社の売却や海外事業の撤退など相次ぎ決断してきた。一方で、医薬バイオ企業の子会社化や化粧品メーカーとの資本業務提携など、攻めの姿勢も強める。磯崎社長は「苦しく、しびれるような経験を積んでこそ、誠実で洞察力のあるトップになれる」と考える。
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――2015年3月にキリンホールディングス新社長に就きました。ブラジル事業の採算悪化などで、キリンHD全体の業績が振るわなかった時期です。
「低収益事業をやめるため、社長に就く前から子会社や関連会社を10社以上、売却しました。立ち上げから私が関わったホテル事業も含まれます。やらなければいけないものをすべて整理する、という思いでした」
「就任当初、業績はとても厳しい状況でした。メディアから、『成長戦略をどうするのか』という質問を多くされ、厳しめの論調が目立ちました。こうした状況で、私が前向きな希望だけ話しても、信じてもらえないでしょう。ですから、経営の3本柱としてやるべきことを明確に掲げました。コア事業のビールを強くする、不採算事業を整理して低収益事業をやめる、医薬バイオ事業を飛躍的に成長させる、です」
――具体的に何をしたのですか。
「まず着手したのが構造改革です。最大の懸案だったのが大きな赤字をだしていたブラジル事業だったので、就任後すぐ出張しました。期待を込めて11年に現地企業を買収したのですが、業績がなかなか上向かない。その理由を探ろうと現地のトップと議論したのですが、核心に迫る話が出てこない。何が本質的な問題か、現地のリーダーが把握できていないんだ、とその時気づいたのです」
「私から見ると、問題はトップの戦略にありました。低価格帯の商品をたくさん売るビジネスモデルなのに、目先の収益を確保するため値上げして価格に敏感な主要顧客が離れてしまったのです。これでは経営再建を託すことができない、と帰りの飛行機の中でトップ交代を考えて、翌月にはニューヨークで後任を決めました」