ハワイ深海でサメと巨大イカ激闘 初めて証拠見つかる

日経ナショナル ジオグラフィック社

イカの触腕のものとみられるゴルフボール大の吸盤の跡が背びれの下付近に残る体長2メートルの「ヨゴレ」。太平洋深海には、ダイオウイカを含む様々な大型のイカが生息している(PHOTOGRAPH BY DERON VERBECK)

パパスタマティウ氏らは、2020年6月3日付で学術誌「Journal of Fish Biology」に発表した論文で、このサメとイカが対決した証拠について記述している。このような跡を残せる大型のイカは数種類いるため、実際にどの種のイカだったのかは不明だ。しかし、同氏が言うには「かなり大きなものだったはずです」

こうした発見は特に、フカヒレ漁により絶滅を危惧されているヨゴレの保全に役立つ。例えば、ヨゴレが深海で採食を行っているようだとわかれば、どの海域を保護すればよいのかを政策立案者に提案することができる。

知られざる深海の闘い

パパスタマティウ氏は、1枚の写真に基づいて結論を下すことは困難だと注意を促す。「何よりも残念なのは、何が起こったのかを実際に見られなかったことです」

サメとイカという捕食者同士が行き合って小競り合いが起こったとも考えられる。だが同氏は、どちらかと言えばサメがイカを捕食しようとして追いかけたのではないかと考えている。

ヨゴレは食物へのこだわりが少なく、様々な種類の魚や小さなイカを食べる。深海まで潜ることはできるものの、海面近くで食物を探すことが多い。

イカがけんかを売ったとも考えられるが、論文の共著者であるフロリダ国際大学の生物学者ヘザー・ブラッケン=グリッソム氏は、イカがサメを捕食するという話は聞いたことがないと話す。

「イカがサメに襲われて身を守ろうとしていたという可能性のほうが高いと思います」と、氏はメールでの取材に答えた。また、サメに付いていた跡からすると、イカの外套膜(がいとうまく)、つまり胴体部分は、少なくとも1メートルはあったはずだという(その大きさのイカであれば、触腕を合わせると体長はさらに8メートルほど長かった可能性がある)。サメの体に付いていた白い点は、触腕の細い部分にある比較的小さな吸盤によるものと考えられる。

米マサチューセッツ大学アマースト校の博士課程で海洋生物学を専攻するグレース・キャッセルベリー氏も、サメが大きなイカと対決したという話を聞いたこともなければ、サメに吸盤の跡が付いているのを見たこともないと言う。なお、氏は今回の論文には関わっていない。

傷跡が付いたサメは多いが、「何が傷を付けたのかを特定できるケースは多くありません」と氏は言う。「肌の傷跡だけからそうした関係を記述できる今回のケースは、とても素晴らしいです」

深海に「ホワイト・シャーク・カフェ」?

今回の研究は、サメに関する別の謎にも迫るものだ。

米スタンフォード大学ホプキンズ臨海実験所の博士研究員シャイリ・ジョーリ氏は、なぜホホジロザメが、獲物がいそうにない海域へ行くのかをずっと疑問に思っていた。氏らはそうした海域を「ホワイト・シャーク・カフェ(ホホジロザメカフェ)」と呼んでいる。

仮説の1つは、ホホジロザメが深海でダイオウイカを捕食しているというものだ。

「今回のヨゴレでの発見は大変重要で、私たちがホホジロザメについて考えていることとも一致します」とジョーリ氏は話す。

また、生物が生息または通過した場所の海水は、その生物のDNAを含む可能性がある。ジョーリ氏によれば、そうした海水を分析することで、深海にどのような種のイカがいるのかがわかり、今回の格闘の被害者(あるいは加害者)だったイカの種を絞り込めるという。

このサメとイカの対決からわかるのは、「海は3次元だということです」とキャッセルベリー氏は言う。「異なる深さに生息する種同士がどう関わり合うのか、私たちは普段、あまり考えていません」

これまで海面近くの生態系と深海の生態系は、比較的独立していると考えられてきたが、知られざる関係があるのかもしれないとパパスタマティウ氏は付け加える。

今回のような海の生物たちの予想外の出会いは、海洋における食物連鎖のつながりに光を当て、ひいては海洋生物の保全に役立つ知見をもたらしてくれるかもしれない。

(文 JOSHUA RAPP LEARN、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年6月10日付]

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