コロナで外食控えたのに 太る人・太らない人なぜ違う
中野ジェームズ修一のカラダお悩み解消講座 第2回

カラダについてのお悩み、ありませんか? 体調がいまいちよくない、運動で病気を予防したい、スポーツのパフォーマンスを上げたい…。そんなお悩みを、フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんが解決します!今回は、コロナで外食を控えているにもかかわらず、太ってしまったというお悩みについて。
外食を控えていたら太ってしまいました
アラフォー会社員の女性です。おいしいものが好きで、新型コロナウイルス感染症が拡大してからは外食をしなくなったのですが、結果として太ってしまいました。
以前から食べ歩きが大好きで、時々、会社帰りにデパ地下を探索し、ご褒美にスイーツを買って帰るのも楽しみにしていました。
30代前半までは食べても太らない体質でしたが、36歳を過ぎてからは、年1kgのペースで体重が増量。現在は、ベストだと思っていた昔の体重から8kgも増えてしまった状態です。
ここ2、3年は太らないように、平日は自炊をして、油の量や調味料にも注意し、肉も脂質の少ないものを選ぶなど、食事には気をつけていました。
最近は、新型コロナウイルス対策で在宅勤務となり、外食はまったくしなくなりましたが、その分、家でのごはんにお金をかけるようになりました。
特にハマっているのは、近所のお店でおいしそうなテイクアウトのランチを探すこと、ちょっといいレストランの食事を配達で頼むことです。
また、週末はスイーツを手作りしています。スコーンやクッキーを手作りするとたくさんできてしまうし、ケーキも1ホール焼くので、何日かかけて食べるとしても、以前より甘いものを食べ過ぎてしまいます。
月に一度、評判の良いレストランに一緒に行っていた食いしん坊仲間の友人に、「在宅勤務で太ってヤバイ」と伝えると、「私は外食しなくなったからむしろヤセてきた。かえって健康的だよ」という返事がきて、ショックを受けました。
なぜ同じように外食を控えているのに、私だけ太ってしまったのでしょうか…。
せめて在宅勤務前の状態に戻りたいです。アドバイスをお願いします。
テイクアウトのランチや手作りスイーツにハマる
「コロナで太ってしまった」という相談を受けることがとても多いですね。運動不足になっていることに加え、家にいる時間が長いので、食べる量が増えてしまったことが原因でしょう。
相談者の方は、家で自炊するときは、以前と同じように食事の内容に気を使っているのかもしれません。ただ、レストランのテイクアウトや手作りスイーツを食べる頻度や量が多くなってしまっているのです。
友人の方は、外食を控えてむしろやせた、とのこと。どうして同じような状況で太る人とそうでない人がいるのか、と疑問に思うかもしれません。
もちろん、太るかどうかには、その人の体質や、どれぐらい運動しているかも関係していきます。ただ、今回の相談の件については、対策を考えるためにも、「なぜレストランのテイクアウトや手作りスイーツにハマってしまっているのか」に着目してみましょう。

ここでいう「ハマっている」とは、それを食べることに対する欲求が非常に強くなっている状態のことです。
例えば、洋食屋でオムライスを注文したとしましょう。食いしん坊の人は、食べる前から、「おいしいオムライスの味」をあれこれ想像し、期待に胸を膨らませますよね。そして、出されたオムライスを食べてみたら、これが想像以上においしかったとき、「うわぁ~これはおいしい! 来てよかった~」とテンションが上がり、それはもう、幸せな気持ちになります。
人間はこういった予想以上の快楽を味わうと、「あの興奮をもう一度、味わいたい!」と同じような行動を繰り返すようになります。そして、ハマっていくのです。
「報酬予測誤差」でドーパミンが放出
この場合、オムライスの味を事前に想像することを、脳科学の言葉では「報酬予測」といいます。そして、実際に食べたときの味(報酬)と、事前に想像したもの(予測)との"差"のことを、「報酬予測誤差」といいます。
人間は、報酬予測誤差があるとき、つまり、例えば予想以上においしいものを食べたとき、"幸せホルモン"と呼ばれる脳内物質(神経伝達物質)の一つである、ドーパミンがドバっと分泌されます。
このとき、ドーパミンが分泌されることによって感じる快楽は、好きな人と会ったときの高揚感と同じです。また、好きなアーティストのライブに参加したときの興奮や、スポーツを観戦したときに感じる熱狂も同様です。
一度味わうと、「またこの幸せな感じを味わいたい」となるので、好きな人とまた会ったり、ライブに行ったり、スポーツ観戦を楽しんだりする行動を繰り返します。これが「ハマる」という状態です。

食いしん坊の人は、おいしいものに「ハマって」しまいます。しかも、恐ろしいことに、この報酬予測誤差によるドーパミンの放出を繰り返すと、「もっともっとドーパミンを出したい!」という状態になり、予測を超えるおいしい食べ物を頻繁に求めようとし、探し歩くようになります。
月に一度で満足していたはずが、週に一度、3日に一度、そして毎日ドーパミンを出さないと満足できない状態になり、しまいには毎食でも「おいしいもの」が食べたくなってしまうのです。
バターや砂糖をたっぷり使ったスイーツや、油や炭水化物たっぷりのラーメンにハマったら、当然、摂取カロリーも上がり、太り続けます。
さらに、食べたものが期待していたほどおいしくなかったりすると、どうなるでしょうか?
すでにハマっている状態にある人は、ドーパミンが出ないと、テンションが下がってしまい、その反動で「よし、リベンジだ!」と、すぐさまおいしいものを探すために行動を開始します。その日のうちに自分にとって「間違いないお店」に行って、食べ直したり、デザートを買い求めたりして、満足感を得ようとするのです。
「食事日記」をつけて食べ過ぎを認識
太らないようにするためには、おいしいものを食べたいという欲求を抑え続けなければならないのでしょうか?
私は、そんなことはないと思います。私自身、フィジカルトレーナーという仕事をしていますが、スイーツやパンは大好きですし、お酒を飲むこともあります。
ただ、毎日のようにドーパミンを出さないと気が済まないというような、"中毒状態"からは抜け出し、月に数回でも満足できるよう、コントロールする必要はあります。
ひょっとしたら、相談者の友人の方は、おいしいものを月に数回食べることで満足できているのかもしれませんよね。
少ない頻度でもドーパミンが出て十分に満足できるようにするためには、自分の食行動のパターンを知ることが重要です。
ですから、まずは「食事日記」を1週間つけてみてください。「毎日のようにテイクアウトのランチを食べていた」「レストランの配達を3日に一度も頼んでいた」など、自分の食行動を把握できるはずです。
次に、できる範囲で、頻度を減らしていきます。「テイクアウトのランチは水曜と金曜の週2回にする」「土曜の夕食だけはおいしいレストランの食事を宅配で頼む」「手作りスイーツは月に1回」といった具合です。
目標が達成できたら、さらに回数を減らしてみる。そうすれば、コロナの前の状態に戻っていくはずです。
頻度を減らすコツは、おいしいものを食べたときの満足度が上がるよう工夫することです。先ほども言ったように、期待を下回ると、食べ直したくなったりしてしまいます。食べるものを事前に十分に吟味して、「とてもおいしくて満足した。これで来週まで我慢できる」などと思えるようにするのです。
たまに食べるのであれば、中途半端にカロリーを気にしたりする必要はありません。とことんチョイスにこだわって、高い満足感を得ましょう。
月に一度の贅沢でも十分満足できるようになるコツ
私のクライアントにも、食べ歩きが大好きという方がいます。トレーニング中も、「あそこのレストランおいしかったよ」「あのお店の和菓子がいいよ」などと、食べ物の話が止まりません。
おいしいものにハマっているクライアントには、食事日記をつけてもらいます。すると、自分が「おいしいもの」を、いつ、どのぐらいの頻度で求めているかが自覚できるようになります。
すると、「さすがにこれは食べ過ぎですね…」と、行動が変わるきっかけになります。トレーニングをいくら続けても、食べ過ぎていてはやせない、ということに自分で気づくのです。
一方で、報酬予測誤差を上手にコントロールしている例もあります。私のクライアントの女性は、ご主人がパイロットということもあり、必ず月に一度、夫婦そろって飛行機に乗り、おいしいものを食べに行くことにしています。
月に一度のその旅まで、彼女は普段の食事では贅沢(ぜいたく)をせず、現地で評判のおいしいお店をとことん調べて過ごすそうです。そして、行きたかったお店に行って、食べたいものをしっかり食べ、大満足で帰宅。そしてまた、次の行き先を決めるために、リサーチする日々を楽しんでいます。
料理だけでなく、お酒や、お店の雰囲気を味わうことでも、ドーパミンは放出されます。月に一度なら、そんな贅沢を思い切りするのもいいですよね。
コロナが収束し、外食できる日常が戻ったら、友人とディナーを心ゆくまで楽しむことを期待しつつ、まずは「できること」から始めてみてください。
コロナ自粛による食べ過ぎを解消するなら…
▼「食事日記」をつけて自分の食行動パターンを認識する
▼食べ過ぎの頻度をできる範囲で減らす
▼目標を達成できたらさらに減らす
▼贅沢するときは思いっきり満足できるよう、事前に下調べをする
(まとめ:長島恭子=ライター)
[日経Gooday2020年5月20日付記事を再構成]

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