マンガ大賞2020 栄冠は『ブルーピリオド』、2位は…
コミックス市場は、2017年に電子書籍の販売金額が紙の単行本を上回り、ウェブマンガを配信するアプリも増加。ウェブ発の短めな作品や、パッと見て分かりやすい、軽いテイストのマンガが台頭し、人気の入れ替わりも早くなった。

マンガ賞も多様化するなか、"マンガ好き"有志が「友達にぜひすすめたいと思う作品」を選出、その選出作品に定評があるのが「マンガ大賞」だ。
3月16日、その第13回となる「マンガ大賞2020」の結果が発表された。一次選考238作品、二次選考ノミネート12作のなかから選ばれた大賞受賞作は、藝大受験に挑む主人公たちの青春模様を描いた『ブルーピリオド』。2位は「このマンガがすごい! 2020」「次にくるマンガ大賞2019」など、多数のマンガ賞で1位を獲得した『SPY×FAMILY』。3位はダークホースとなった『スキップとローファー』。過疎地育ちながら東京の高偏差値高校に首席入学して上京した、ちょっと天然な女の子の恋と青春を描いた作品。他のマンガ賞とは、一味違う結果となった。
作品力が受賞につながる
「マンガ大賞」実行委員の田中香織氏は、この賞の特徴を「1年に1回のタイミングで選んだ、どっしり腰を据えて読める、誰にでもお薦めできる"強い物語"が選ばれています」と語る。


大賞の『ブルーピリオド』は、実は昨年も同賞で3位となった作品。今回改めて大賞を受賞したのは、「6巻まで積み上げてきた物語の"深まり"や"熱さ"が大きかったのでは」(田中氏、以下同)とのこと。
「18年に発売された1~3巻は、なんでもそつなくこなすリア充の主人公が、正解のない絵画という新しい道に進んでいく流れ。19年の4~6巻ではいよいよ受験本番となり、物語は佳境に。自分の能力の不安や、友人の悩みや家族の問題と向き合うなど、芸術に興味がなくても共感できるエピソードが続いて、人に薦めやすい展開が増えたからではないかと思います」
2位の『SPY×FAMILY』は、凄腕スパイの男、殺し屋の女、超能力少女と赤の他人が家族になるホームコメディで、マンガ賞総なめの1作。


3位の『スキップとローファー』も、2~3巻と読み進むうち、1巻だけでは分からなかった主人公の魅力や周囲のキャラクターの顔が見えてきてハッピーな気持ちに。4位の『波よ聞いてくれ』は、16、17年に既にノミネートされた作品だが、マンガ大賞の選考は8巻までというルールがあるため、既刊7巻となった19年が最後のチャンスと読み続けてきたファンが再プッシュ。結果、新登場の3位と1票差となった。
ノミネート作品には、疑似家族的な関係を独特の味わいで描いた『水は海に向かって流れる』(5位)や『違国日記』(10位)、40代になった女性の心や体の変化を描く『あした死ぬには、』(12位)など、シリアスなテーマや社会的な課題、人との関係性を、ほのかなユーモアや繊細な感性で丁寧に描いたものも多い。
「こうした作品は、単行本として手元に置きたい読者も多いようで、新刊発売時には『本屋を探し回った』といったツイートが挙げられた作品も少なくないようです」
同賞はこれまでにも、『ちはやふる』(09年)、『テルマエロマエ』(10年)、『3月のライオン』(11年)、『ゴールデン・カムイ』(16年)、昨年の『彼方のアストラ』(19年)などを大賞として選出。アニメや映画の原作となった映像化実績の高い賞としても知られている。
「昨年は12年に大賞を受賞した『銀の匙 Silver Spoon』が完結して感慨深かったです。時代や世代を超えて、いつ誰が読んでも面白い、いつまでも残り続ける作品が選ばれている賞だと、改めて感じています」
前年出版の、電子書籍を含む単行本最大巻数8巻まで。1次選考238作品から上位12作品が選ばれ、2次選考は全て自腹で読んで、1位、2位、3位を投票。1位3ポイント、2位2ポイント、3位1ポイントで集計。
(ライター 波多野絵理)
[日経エンタテインメント! 2020年5月号の記事を再構成]
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