寝るだけでストレッチ効果 オンキヨーの枕がヒット
音響機器メーカーの老舗オンキヨーが健康グッズを販売していることを知る人は少ない。ところが同社の「ミオドレ式 寝るだけストレッチ枕」は累計で1万個以上売れた人気商品。それは一体どんな枕なのか。そもそもなぜオンキヨーが健康グッズを販売するのか。担当者に聞いた。
理学療法士が考案、オンキヨーの異端児がプロモート
1回10分、1日2回、上に寝転がるだけでスタイルアップを目指せるという「ミオドレ式寝るだけストレッチ枕(税別9980円、以下ストレッチ枕)」。これを製造・販売しているのは意外にも、音響機器メーカーの老舗、オンキヨーだ。2020年2月21日には従来モデルと硬さの違う2モデルも追加され、直販サイト「ONKYO DIRECT」や公式ショップ「ONKYO BASE(東京・千代田)」で購入できる。
多くの女優やモデルが通うアンチエイジングサロン、ソリデンテ南青山(東京・港)の小野晴康代表が考案したこのストレッチ枕、実は販売数の累計が1万個を超えているヒット商品だ。18年9月29日、TBSテレビ系のバラエティー番組「王様のブランチ」の通販コーナー「ブランチショッピング」で取り上げられた際は、放映時間は3分たらず、販売期間もわずか3日だったが、4000個弱が売れたという。
アンチエイジングサロンと音響機器メーカーという異色のコラボレーション。仕掛け人はオンキヨーマーケティング部クロスマーケティング課エグゼクティブプロデューサーの亀井隆司氏だ。「(音響機器メーカーの製品だけに)音は鳴るんですか、とよく聞かれるが、オンキヨーの技術は一切使われていない」と亀井氏は笑う。
たまたま知人に紹介された小野氏と「何か一緒に仕事をしたいね」という話をしたのが、亀井氏がストレッチ枕を扱うことになったきっかけだ。実を言うとオンキヨーのストレッチ枕は、既に講談社から販売されていた「ミオドレ式寝るだけダイエット枕」が元になっている。しかし講談社の製品は空気注入式だったため、「ポリウレタン製の本格的な製品にしたい」という小野氏の要望を受け、亀井氏の部署で製造・販売することにしたという。
音響機器メーカーのオンキヨーに、ストレッチ枕など作るノウハウはあるのか。多くの人が疑問に思うだろう。この点について亀井氏は「僕のチームは社内ベンチャーみたいな部署。音響機器メーカーだからといって、音響機器だけやっていても先がない。これからは美容と健康の市場が伸びるとみて、(ストレッチ枕を)手掛けることにした」と話す。実は亀井氏自身、オンキヨーに転職する前はノベルティーグッズなどを企業向けに製作するセールスプロモーション関連企業に勤めていた。そうしたグッズの製作はお手のものだ。
上層部に直談判、3分のテレビ通販で4000個売れた
亀井氏が事業を立ち上げたのは17年末。自分の部署でストレッチ枕を扱いたいと、上層部に直談判に行ったという。このとき亀井氏には企画を通す自信があった。というのも、それまでオンキヨーが手掛けなかったアニメ作品とコラボしたイヤホンやヘッドホンを企画し、ヒットさせた実績があったからだ。さらに亀井氏の部署では、オンキヨーの名前こそ出していないが、某飲料メーカーのノベルティーグッズなども製作しており、そちらでも実績を挙げている。社内からも反対の声はなく、むしろ「亀井がやるなら(売れるだろう)」という空気だったという。
上層部のGOサインはその場で出たものの、製品が完成するまでには半年ほどかかった。小野氏の監修の下、ストレッチ枕の素材である発泡ポリウレタンの硬さなどを微調整しながら何度も試作を重ねた。素材、耐久性、耐荷重の要求仕様全てに対応できるメーカーを探すのにも苦労した。
改めて「ミオドレ式寝るだけスリム枕」と命名された製品が、オンキヨーの公式オンラインショップに掲載された18年6月、亀井氏はすぐさまプロモーションを開始した。販売チャネルとして利用したのは「王様のブランチショッピング」「キニナル金曜日」(ともにTBSテレビ系)といったテレビ通販だ。それが前述の「爆売れ」につながった。
最近は健康グッズを扱う量販店も多いが、「知名度がないまま量販店に置いても駄目。まずはテレビ通販で知名度を上げてからでないと売れない」と亀井氏は言い切る。
薬機法に配慮して商品名を変更、硬さ違いでテコ入れ
ストレッチ枕を現在の名称に変更したのは19年の10月のこと。TBSテレビとの契約が3月に終了し、別の通販番組で販売するようになったのがきっかけだ。
「『スリム』という表現が審査基準に引っ掛かった」と亀井氏。当初使っていた「肩こり・首こり解消」「ぽっこりおなかがへこむ」といった表現も、「筋肉を伸ばす」「柔軟性が高まる」といった表現に変更することになった。
加えて「ストレッチ枕の冊子を作るときは、薬機法上の問題はないか東京都庁へ相談に行った。エビデンスがあっても雑貨カテゴリーの製品は効果効能をうたえないと言うので、どう訴求するかに頭を悩ませた」と亀井氏は当時を振り返る。
その後、他の業務に忙殺され亀井氏のプロモーション活動は停滞。それに歩を合わせるかのようにストレッチ枕の販売数も伸び悩む。そこで19年9月、亀井氏は主に20~40代の女性向けだった従来モデルとは硬さの違うモデルを投入してテコ入れしようと考えた。
亀井氏によれば「お客様相談窓口には硬さに対する要望が多かった。そこで小野代表に相談したところ、アスリートにはもう少し硬め、年配者には少し軟らかめがいいという話になり、ハードタイプとソフトタイプを追加した」とのこと。ハードタイプは10~30代の男性向け、ソフトタイプは50代以上のシニア向けのモデルだ。20年2月21日に新モデルが投入されたことで10代からシニア世代までターゲットが拡大、ストレッチ枕の販売数は再び上向いた。
ストレッチ枕の販売に関しては、自社サイトでの直販を強化するとともに、従来モデル同様、通販番組や展示会などを利用して認知度を高めていくと亀井氏。音響機器メーカーにいながらウエルネス事業に取り組むことについて亀井氏は「そもそも音響機器を作るために入社したわけではないし、会社から音響機器を作れと言われたこともない。好きなことをやらせてもらっているだけ」と言いつつも、オンキヨーの業績向上に意欲を燃やす。
(ライター 堀井塚高)
[日経クロストレンド 2020年5月7日の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界