相手を選ばぬコロナの脅威 女性や子どもに影響大きく
ダイバーシティ進化論(村上由美子)
新型コロナウイルスは国籍、人種、社会的地位等にかかわらず、全ての人々に襲いかかる。若年者層より高齢者層、女性より男性の方が重症化しやすいという傾向があるようだが、基本的にどんな人も感染リスクにさらされている。
ところが米国ではアフリカ系アメリカ人が、他の人種より重症化や死亡する確率が高いことが確認されている。アフリカ系アメリカ人の中には高血圧などの基礎疾患が多い傾向に加え、配達員、介護要員、食料品店の店員など、外出禁止体制下でもいわゆるエッセンシャルワーカーとして社会インフラを支える業務に携わっている人が多いことが主因とされている。
社会の特定の層に被害が集中してしまう事態は、各地で起きかねない。例えば医療従事者の約7割が女性だが、病院や介護施設でクラスター(感染者集団)が多発しているため、多くの女性が感染リスクにさらされている。
またウイルス感染による直接的な健康被害だけでなく、感染拡大防止のためにとられる対策の経済的インパクトは、社会の弱者に重くのしかかる。非正規雇用やパートタイムで働く人々が失業や減収に直面する可能性は、正規雇用で働く人々より圧倒的に高いだろう。非正規雇用の3分の2を女性が占めるという日本の現状を鑑みると、男女の経済格差はますます深刻化すると予想される。
さらに注視すべきは子供の貧困だ。すでに日本のひとり親家庭の子供の貧困率は経済協力開発機構(OECD)諸国中で最も高いレベルだが、休校で給食がなくなる上に母子家庭の収入が減少することで、影響は低所得家庭の子供たちを直撃している。欧米では、ドメスティックバイオレンス(DV)の急増が報告されているが、日本でも同様の事態が相談現場に寄せられていると聞く。女性や子供を被害から守る早急な対策が求められる。
新型コロナウイルスは相手を選ばない。しかし、それぞれが置かれた状況により、自らの身を守る手段は著しく異なるという事実を我々は認識する必要がある。
有効な解決策は、社会全体が一致団結しなければ見つからない。属性のみならず、個々が置かれている社会的・経済的状況の多様性を勘案してこそ、この危機を乗り越えるための道筋が見えてくるのではないだろうか。
[日本経済新聞朝刊2020年5月11日付]
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