日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/5/17

「ズーク・ファミリー」として知られるカワウソの家族を観察しているうちに、都市にすむカワウソの生態について新たなこともわかってきた。たとえば、カワウソは本来狩りが得意な動物だが、ズーク・ファミリーのおとなたちは、子どもがいると狩りの成功率が劇的に下がるのだという。子どもに狩りのやり方を教えるのに、時間を取られてしまうためだ。

「子どもの成功率は50%前後、成体の成功率は100%近いです。ところが、子どもがいると行動を変えなければならないので、成功率が落ちるのです。とても面白いことだと思いました」と、ジョーンズ氏は言う。

このほかにも研究チームは、土地が狭いこともカワウソの行動を変化させていることに気付いた。子離れの時期が遅れるというのもそのひとつだ。

野生のカワウソは2歳になると親を離れて自立するが、シンガポールのカワウソは3歳か4歳になるまで親と一緒に生活する。縄張りが空くのを待っているのだ。「人間で言うなら、35歳の大人がまだ親の家に住んでいるようなものです」

1匹のカワウソが必要とする縄張りの広さは、エサがどれだけ手に入るかにもよるが、中には広い縄張りを持ち、1日に15キロ近く移動する個体もいる。ビロードカワウソは一夫一婦制で、家族は両親、成長した子ども、4~6匹の子どもで構成されている。

すっかり都市の生活に慣れたかのように見えるカワウソにも、脅威はある。カワウソとともに川の食物連鎖の頂点に立つミズオオトカゲは、カワウソの子どもを捕食する。

でもさらに大きな脅威がある。実は、シンガポールのカワウソの主な死因は自動車事故だ。カワウソ保護団体のオッター・ワーキング・グループのバーナード・シアー氏によると、年間5~6匹が、自動車にはねられて死んでいるという。

チャリティー活動家、政府関係者、研究者で構成される同団体は、カワウソを監視し、道路標識やカワウソに関する豆知識が書かれた情報板を、カワウソがよく出没する場所に設置するなどの啓発活動を行っている。2016年には、シンガポールマラソンのコースにカワウソの家族が突然進入してきたため、団体のボランティアが慌てて走って行ってランナーに警告し、衝突事故が起こらないようコース沿いに立って目を光らせていた。

様々な市民の協力によってカワウソを保護するというこの団体のやり方は、台湾の金門島やマレーシアの首都クアラルンプールなど、他にも都市カワウソが増えている地域で採用されている。

正体不明の動物に集まった関心

シンガポール国立大学の生物学者シヴァソティ・エヌ氏にとって、シンガポールにカワウソが戻ってきたこと、住民たちの人気を集めていることはうれしい展開だった。

シンガポールの川にカワウソが戻ってきたばかりの頃、カワウソを見たことのない人々はビーバーかアシカだと思ったという。シヴァソティ氏は、人々にカワウソのことを知ってもらうために「オッターウォッチ」というウェブサイトを立ち上げた。

1990年の初め頃は、カワウソを研究するにはマレーシアのペナン州まで出かけなければならなかった。1匹でも見つからないかと期待して、マングローブの森を何時間も歩いたものだと、シヴァソティ氏は言う。それが今では、家からちょっと外に出れば、遊んでいる姿が目に留まるようになったのだ。

次ページでも、都市の自然の中でしたたかに生き抜くカワウソ一家の様子を写真でご紹介しよう。