感染拡大防止へITで行動追跡 プライバシー守れるの

中国や韓国でITによる個人追跡システムが効率よく機能している背景には、スマホ普及率の高さや、「監視アプリ」を使うことへの心理的な抵抗が弱いことがあるとされます。日本で導入するアプリは利用が任意となるため、利用者数が増えない場合、その効果が限定的なものにとどまる懸念もあります。

大屋雄裕・慶応義塾大学教授「社会のあり方を問い直す機会に」

新型コロナウイルス感染症対策としてスマートフォンアプリなどの個人追跡システムを使う際、どのような点に留意すべきか。個人プライバシーと感染症対策の実効性のバランスをどうとるべきか。情報化社会や監視社会を研究する大屋雄裕・慶応義塾大学教授(法哲学)に聞きました。

――各国が進めている、スマホや監視カメラなどを使った個人追跡の試みをどう評価しますか。

大屋雄裕・慶応義塾大学教授

「感染者をできるだけ早期に見つけて隔離・治療するのが対策の基本なので、スマホの監視記録アプリや防犯カメラの分析、あるいは濃厚接触者の聞き取りが感染症対策として有効であることは間違いない。問題はこうした対策が一定レベルを超えると過剰なものになってしまうことだ。検査結果が判明するまで隔離することを必要最小限のレベルとすると、それ以上の施策をとれば感染封じ込めの効果は高まる半面、感染者でないのに隔離される人が増えてしまう。この必要レベルが満たされるかということと、過大な犠牲を強いていないかという両面を見る必要がある。このバランスをとるのが非常に難しく各国とも苦労していると思う」

――スマホアプリの場合はどうですか。

「スマホアプリ利用はオプトイン、つまり利用者の事前同意を前提としている。このため本来必要な人が協力しない可能性があり、必要最小限を満たすのに有効なのかという点で不安が残る。ただ形式上オプトインであっても、権威主義的な国が全員に導入を促すなど社会的に強い圧力が働けば機能するかもしれない。そして機能すればするほど逆側の境界、つまり過剰な対策にならないかという問題が生じる。スマホアプリなどで接触履歴を追跡するわけだが、誰と会ったかという情報は人によっては非常にセンシティブだ。しかしそれを追跡しないと他の人々の人権が損なわれる危険性があるというのが根本にある問題だ」

「追跡システムを導入する場合、情報の『前向きの利用』と『後ろ向きの利用』を区別して考える必要がある。後ろ向き利用は、既に確定した過去の事実を探求することだ。ある人が検査で陽性とわかった、そこで濃厚接触した人を教えてくださいという形で調べる。一方、前向きの利用は、こういう人たちは感染してそうだから網をかけようという方法だ。例えば感染源とされる場所に行った人とか、夜の街で働いている人は感染の可能性が高いのでみんな検査をしなさいと言って引っ張ってくるやり方だ」

「後ろ向き利用の場合は、過去の事実は確定しているのでいわゆる『誤爆』は起こりにくい。むしろ今回のスマホアプリのように記録が増えるほど誤爆の可能性が低くなり、追跡の結果特定された人が検査を受けて、早期治療の対象になることはその人の利益になる。これに対して、前向き利用の場合は誤爆の可能性がどうしても残るし、当事者にとっての利益も確定しないので、注意が必要だ」

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