定年後、やりたいことが見つからない著述家、湯山玲子さん

著述家、プロデューサー。東京都生まれ。「女装する女」など著作多数。クラシック音楽のイベント「爆クラ!」を主宰。テレビのコメンテーターとしても活躍。

仕事をしているときは、辞めたら「いろいろなこと」をやって「いろいろなところ」に行こうと思っていましたが、定年で時間ができたら、いろいろなことに興味を持てなくなりました。教養が大切なのかなと痛感しています。(岩手県・60代・女性)

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どうも、日本人は自分の人生の時間を自分の意思で、自分のために使うことが苦手なようです。

そりゃ、そうですよ! 考えてみれば、小学生のときから、放課後は塾や部活、社会人になってからは仕事に子育てに追われます。余暇も人付き合いや気晴らしのエンターテインメントや旅行で時間が潰れてしまう。自分の心の欲求を行動に移すというよりも、外部から押し寄せてくる「やらなければならない」ということがらを、条件反射のように打ち返して過ごすのが、多くの人の生き方なのです。ちなみに、日本には季節ごとに行事が目白押し。花見だ、夏祭りだなどと流されていても、面白く生きられる装置がそろってもいます。

そう、定年後「いろいろなこと」をやろうと思っていたのに、実際そうなったら興味を失ったという相談者氏の件も、「自分の心の欲求を行動に移す」訓練ができていないから。心の欲求というものはオリジナルなものですが、ワガママという言葉で抑圧されてしまう経験を、みな持っているのではないでしょうか。

相談者氏の「やりたいと思っていたいろいろなこと」とは、忙しさの中での逃避願望もしくは、他人からの受け売りにすぎなかったということが露呈して、シラケてしまったということでしょうね。本心に向き合ったとき、「私がやりたいことって何にもなかったんだ」と気づき、その原因は教養不足だとも。

結論を言いますと、「やりたいこと」を見つけるのに時間を費やすよりも、とりあえず、興味がなくなった現役時代の夢を、義務のように実現することをオススメします。行動することの快感を得て、意思→実行→快感の回路を太くする。面白いことに、そうなって初めて、ぼんやりとしていた「心の欲求」がはっきりするところもあるのです。

ただ、現在は行動しようにも、新型コロナウイルスの感染拡大で外に出られません。例えば、パリに行ってみたいという欲求なら、パリに関する映画を見まくり、小説を読みまくり、自宅でフランス料理に挑戦してみる。文化を学んで出かけた旅は、そうでない旅よりも何倍も深くなることは間違いありません。

今は来たるべき行動のための「深掘り」の時期と心得て、時間を楽しむに限ります。


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