動いたほうが痛みが長引かず、ぎっくり腰の再発率が低い
レッグレイズにはどんな意味があるのだろうか?
「おへそから5cmほど下のいわゆる丹田を意識してレッグレイズを行うとインナーマッスルである腹横筋や多裂筋が働き、それに連動してアウターマッスルである脊柱起立筋が緩みます。ぎっくり腰で痛む時はアウターマッスルが緊張した状態です。この緊張も痛みの原因なので、レッグレイズには痛みを和らげる働きがあるのです」(松平さん)
ぎっくり腰は、動かすと痛いので安静にしがちだが、「ぎっくり腰の痛みは、放置すると悪化するとか、体にとって良くないことが起こるなどの可能性は基本的にはないので、動かしても問題はありません。むしろ、腰をかばって動かさずにいると、腰や背中の筋肉が緊張して血流が悪くなり、疲労物質がたまって発痛物質が増えてしまいます」(松平さん)
ぎっくり腰の後に「安静にした場合」と、「できる範囲で動いた場合」の勤労者を比べた研究では、できる範囲で動いたほうが痛みが長引かず、ぎっくり腰の再発率が低かったという。

現在、西欧諸国や日本の腰痛の診療ガイドライン(治療指針)では、ぎっくり腰などの心配な病気のない急性の腰痛には安静が推奨されていないという。
「腰の痛みが激しい場合、当日、翌日くらいは仕事を休んでも仕方がないですが、痛み止めの薬を飲みながら、家事などでできそうなことがあれば、普段通りにやりましょう。寝たきりで安静にする必要はありません。海外のガイドラインでは、ぎっくり腰などの心配な病気のない一般的な急性の腰痛の場合、安静にして寝ているのは長くて2日までとしているものが多いと報告されています」(松平さん)
ヘルニアや骨の変形が痛みの原因とは限らない
ぎっくり腰で整形外科に行き、X線検査を受けた後、画像を見ながら先生に、「椎間板がすり減っているね」「骨に棘(とげ)がありますよ」などと言われたことはないだろうか。これ以上悪くなったらどうしようと不安になった人もいるだろう。椎間板のすり減りや骨の棘は治療しなくていいのだろうか。
「画像診断はぎっくり腰と他の病気を鑑別するために行いますが、その際、骨の変形(棘)やちょっとしたズレ、ちょっとした椎間板ヘルニアなどが見つかることはよくあります。ほとんどは加齢による変化で、白髪やシワのようなものです。これらは必ずしも腰痛と関連するわけではありません。ちなみに、腰痛がない人でも40~59歳の約8割、60歳以上の約9割に椎間板の異常が見られたという有名な論文があります[注3]」(松平さん)
中高年にとって骨や椎間板の異常があるのは自然なこと。あまり心配はいらないそうだ。「むしろ、心配や恐れなどのストレスは脳に影響し、腰の痛みを増幅させたり、長引かせたりします。腰の痛みや加齢による変化を過剰に心配したり、怖がったりしすぎないことが大切です。冷静に『動かしても大丈夫なんだ』と思い、体操をしたり、なるべく早く日常生活に戻るようにするといいのです」(松平さん)
◇ ◇ ◇
今回はぎっくり腰が起きて動けなくなった時に多少でも動けるようになるための「裏技」を紹介したが、次回は、「ぎっくり腰が起きた後、痛み止めや湿布、コルセットが必要かどうか」や「脳が原因となって起こる腰痛」「腰痛やぎっくり腰を防ぐ日常生活術」などについて解説します。
[注3]J Bone Joint Surg Am. 1990 Mar;72(3):403-8.
(文 村山真由美、イラスト 平井さくら、図版 増田真一)

[日経Gooday2020年4月14日付記事を再構成]