「人生で一番長い休み」になって思うこと(井上芳雄)第66回

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。4月7日に政府から緊急事態宣言が発出されたことを受けて、4月に予定されていた舞台『桜の園』は全公演が中止になりました。5月から出演する予定だったミュージカル『エリザベート』も8月までの全公演が中止に。まさか、こんなことになるとは……自分の中で気持ちに整理をつけるのはまだ難しいというのが正直な思いです。

新型コロナウイルスで演劇界が打撃を受けているという話を前々回に書きました。あれから1カ月で状況はまた大きく変わり、今は東京でやっている舞台はありません。全ての演劇人が、自分のこととして受け止めざるを得ません。

僕も1週間以上ずっと自宅にいます。自分たちのなりわいとしていたものをやってはいけないとなったときに、どう捉えればいいのか。これが何なのか、まだ自分でも整理をつけるのは難しい気がしています。それくらい急に状況が変わってしまいました。

『桜の園』の公演中止が決まったのは、緊急事態宣言が出る前日でした。3月いっぱいまで稽古をやって、4月に入って数日は舞台稽古をしました。Bunkamuraシアターコクーンにセットを組んで、衣装もかつらも全部ありました。ただ、市中に感染者が増えて、緊急事態宣言が出るかもしれないというなかで、稽古や作業をすること自体への不安も募ってきました。舞台上での稽古もマスクを着けてやっていました。経験したことがないような緊張状態というか、ギリギリのところでやってましたね。それで舞台稽古がしばらく休みになって、その間に中止が決まりました。

連絡は電話やメールで届いたので、みんなで集まることもなく、区切りが全くつけられないまま終わりました。次の日に楽屋の荷物をそれぞれ取りに行ったので、会えた人もいるけど、会えなかった人もたくさんいます。終わってからラインのグループができて、なぐさめあったり、悲しみを分かちあったりしました。稽古中は一緒に食事をする機会もなく、「稽古場での稽古最後の日に焼き肉を食べに行きましょう」とか言っていたのですが、かないませんでした。なにより、お客さまに見ていただけなかったのが残念でたまりません。舞台はもともと形がないものですが、それにしてもあまりにはかない終わり方でした。

役者は、1カ月半みっちりつくってきた役が急にいなくなると、どうしていいか分からなくなります。僕もお風呂に入ったら、長台詞を言ってみたりします。やるあてもないのに、つい練習してしまうんですね。そういう悲しさを抱えながら、みんな過ごしていると思います。

『エリザベート』は、6、7月の地方公演ならまだ数カ月先なので行けるかもしれないと思っていたのですが、100人を超えるカンパニーが都市間を移動するのは安全の確保が難しいということもあって全公演が中止となりました。僕は4月後半から稽古場に行く予定だったので、1回も稽古をせずに終わってしまいました。

エンタメ!連載記事一覧
注目記事
エンタメ!連載記事一覧