――MaaSによって、街の姿も変わりそうです。
理想的な街作りは、難しい課題です。効率だけを考えると、今の日本の街の姿に落ち着く。経済合理性を突き詰めた結果が、今の街の風景なのだと思います。例えば、もっと街に緑があった方がいいと誰もが思っていても、駐車場にして利益を得る方を選んでしまうわけです。
あらゆる産業巻き込み、街の姿が変わる
ところがMaaSが本格的に普及すれば、マイカーは今ほど必要なくなるかもしれません。すると、道路はもっと別のことに使えるスペースになる。駐車場も不要になるでしょう。その空いたスペースを何に使うのか。それはMaaS事業者だけではなく、不動産会社など都市計画を手がける方々が参入する分野かもしれませんが、より暮らしやすく利便性の高い方向に街の姿が大きく変わる期待があります。
このように、MaaSが単に「交通機関を束ねる便利なサービス」で終わってしまうのではなく、あらゆる産業を変革していくデジタルプラットフォームになってほしい。その期待を込めて、Beyond MaaSという新概念を打ち出しました。実は、2018年11月に発行した前著『MaaS―モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ―』(日経BP)の裏表紙には、Beyond MaaSと書いてあるんです。それから1年が経ち、今回の新刊で紹介したようなBeyond MaaSの事例が、国内外で実際に出てきています。
では、次はどこへ向かうのか。新刊の裏表紙には、「Welcome to Smart City」と書きました。MaaS時代のスマートシティーの実現に向けて、どんな取り組みが必要なのか。本書ではグーグルの兄弟会社、サイドウォークラボが手掛けるカナダ・トロント市や米シアトル市などの事例を紹介するとともに、「ビジョンの共有」「官民データ連携」「データ駆動型のプロセス」という日本でのスマートシティー実現のための3つのキーワードを挙げて考察しています。私たちが抱いているMaaSが作り出す未来への期待が、今後現実のものとなっていけば、こんなにうれしいことはありません。
(聞き手:ライター 出雲井 亨 写真:高山 透)
MaaS Tech Japan代表取締役。2005年、鉄道会社に入社。ICTを活用したスマートフォンアプリの開発や公共交通連携プロジェクト、モビリティー戦略策定などの業務に従事。14年、東京大学学際情報学府博士課程において、MaaSの社会実装に資する提言をまとめる。現在は、MaaS Tech Japanを立ち上げ、MaaSプラットフォーム事業などを行う。