天然痘に勝利、SARS封じ込め パンデミック闘いの歴史

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

人類は幾度もパンデミックに悩まされ、その度、闘ってきた。ワクチンもそうした武器の一つで、新型コロナのワクチンの登場が期待されている。写真はイメージ=iStock.com / nambitomo

人類と恐ろしい伝染病との闘いは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が初めてというわけではありません。古くはペスト、天然痘、梅毒などの疫病との闘いがあり、近年でも重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)、鳥インフルエンザがありました。

忘れてはいけないのは、人類はその都度、経験したことのない災厄に立ち向かい、克服してきた歴史があるということです。

そこで、今回は書籍「ビジュアル パンデミック・マップ 伝染病の起源・拡大・根絶の歴史」(日経ナショナル ジオグラフィック社刊)から、COVID-19と同じコロナウイルスであるSARSにどう立ち向かったのかと、実際に封じ込めを越えてウイルスの根絶に成功した天然痘の例を紹介しましょう。

人類が唯一撲滅したウイルス

天然痘は、高熱が出てのう胞となり、生涯その跡が残る病気です。病原体は天然痘ウイルスで、17世紀から18世紀にかけてはその病毒性の高さが恐れられ、欧州では「まだらの怪物」と呼ばれました。天然痘の流行を主に起こしてきたのは大痘瘡型と呼ばれるウイルス株で、ヨーロッパでは18世紀末まで年間およそ40万人が天然痘で命を落としました。

専門家は、1万年ほど前のアフリカに生息していた、げっ歯類の保有ウイルスが進化したものと考えています。

古くから人類に感染していたようです。紀元前1157年に死んだエジプトの王ラムセス5世のミイラは顔に病変部が見られ、天然痘のために命を落とした可能性が指摘されているほどです。日本でも700年代に天然痘が猛威をふるった記録があります。島国である日本に天然痘が入ったのは、文明の発展と無縁ではなく、中国や朝鮮半島との交易を通じてもたらされたと考えられています。

長きにわたって人類を苦しめてきた天然痘から救ったのが、英国の医師エドワード・ジェンナーです。ジェンナーは1796年、牛痘、すなわち感染したウシの膿(うみ)=膿疱(のうほう)を未感染の人に接種する方法を発展的に編み出しました。

今では、考えられませんが、ジェンナーは庭師の8歳の息子ジェームズ・フィップスに牛痘を接種し、その後数回にわたって天然痘を接種するという実験を行いました。ジェームズ少年にとって幸運なことに、ジェンナーの仮説は正しく、彼は天然痘にかからずにすんだのです。

ちなみにジェンナーが編み出した方法は、牛を意味するラテン語「vacca」から「vaccination(ワクチン接種)」と呼ばれるようになりました。今日、私たちに身近なワクチンの元祖です。

ワクチン接種は、英国で絶大な効果を発揮し、すぐに世界中に広まりました。1804年から14年にかけてのロシアでは200万人が接種を受けたといいます。

その後も天然痘との闘いは続きましたが、1975年にバングラデシュの3歳の女の子ラヒマ・バヌーが発症したのを最後に、2種類のウイルス株の中でも病原性の高い天然痘ウイルス大痘瘡型に自然感染した人間はいなくなり、80年に世界保健機関(WHO)は根絶宣言を出しています。

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