CGの申し子たち、AI時代の世界へ 文化の「顔」に早稲田大学 先進理工学部 森島繁生(最終回)

2020/5/12

「研究室」に行ってみた。

ナショナルジオグラフィック日本版

若い世代にとってディープラーニングは「新しいもの」ではない。
文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた。」は、知の最先端をゆく人物を通して、世界の不思議や課題にふれる人気コラム。今回転載するシリーズは、生きた人間の動き、とくに「顔」をCGで再現する研究がテーマです。人工知能(AI)を使ってより実物に近いコピーを生み出そうとすると、かえってまねが難しい人間らしさの価値に気づく、そんな面白さがあるようです。表情豊かに顔と向き合う師弟の姿も伝わってきます。

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「顔の研究」という一つのテーマを入口にして、アニメなどのコンテンツ制作支援についてまで話が広がった。最初にも述べたように、森島さんの研究は別に「顔」に限定されるわけではなく、むしろ、「画像情報処理を通して、人を幸せにする」というモチベーションに支えられている。

そして、もう一点、特筆すべきなのは、これらの研究のほとんどが、森島研の学生さんによるものだということだ。森島さん自身、黒子に徹することが多いし、研究に専念する博士研究員(ポスドク)もあまり置かない。あくまで学生を訓練し、国際的な研究の舞台に立たせることに注力し、研究成果も出すというスタイルを貫いている。

これまで聞いてきた事例の中でも、森島さん自身が「駆け出し」だった時代のものを除けば、ほとんど、研究室の学生が、筆頭著者に立って論文を書いた成果ばかりなのである。

なぜかと聞くと、非常に示唆に富む回答が返ってきた。

「僕らもそうなんですけど、日本の閉じた社会の中にいると、結局そこの中でグルグル回ってるだけで、世界になかなか飛び出していこうとしないじゃないですか。今の世界では、すごい優秀な人たちがあちこち飛び回りながらいろんなチャンスを得ているわけです。うちの学生も、アドビのインターンとかに行くんですけど、そこに来ているアジア系って大半が中国人で、若干韓国の人がいて、日本人は彼だけみたいな、そういう状況が常にあって。世界的な視野では、日本の教育、経済、社会の状況はかなりよろしくないのに、すごく狭いとこで完結しちゃうのはまずいですよね。そこで、国際的な視野を持って活躍できる卒業生を送り出すというのが大きな課題なんです」

大学が、研究機関であると同時に教育機関である以上、この発想はとても自然だ。とはいえ、すべての研究室がこんなふうだというわけではない。おそらく、森島さん自身の強い信念、あるいは背景にある考え方の方向性が強く作用しているのだろう。

「学生たちにはまず最初に言うんです。研究するということは、卒業するための条件の一つには違いないけれど、果たしてそれだけで終わっていいのか。研究業績に上下関係はない。研究は人生を大きく変える、未来を拓く。日本がどうなろうと、世界がどうなろうと、研究業績と英語力さえあれば、どこの世界でもやっていけるって。うちは、学生の研究がラボを牽引している主体なんだということと、学生がどんどん海外に出ていって世界を活躍の舞台にするんだってことを毎年繰り返し言っています」

だから、森島研では、学部学生でも常に海外を意識した研究を志すことになる。国内、国外の学会で発表するのは基本で、デモを作ったり、最終的にはできるだけ高いレベルの雑誌に論文を通すべく全力を尽くす。卒業研究をしている8人の学部生全員が、SIGGRAPHにポスター論文を通した年すらあるそうだ。

もっとも、ここまで「学生が主体」でやっていけるのは、分野自体の若さ、熱さ、そして、スピード感による部分も大きいだろう。

それを象徴するのが「短期留学」だ。