人生を学ぶ35キロ ラ・サール名物「桜島一周遠行」ラ・サール高校・中学(下) 教育ジャーナリスト・おおたとしまさ

この時点でスタートしてから2時間50分。計算通りのペースだ。前半で何度かすれ違ったサッカー部の高校2年生2人とともに休憩した。

中間チェックポイントで手早くエネルギー補給する

Aくん:何の取材ですか?

おおた:ウェブサイトの連載で、いろんな学校を取材しているんだ。

Aくん:こいつすごいですよ。灘も受かったのにラ・サール来たんです。

おおた:へー、どうして?

Bくん:寮が楽しそうだなと思って。

おおた:実際どう?

Bくん:ラ・サールに来てよかったと思ってます。大学進学のことを考えたら灘のほうがよかったのかもしれないけど……。

Aくん:灘でついていけるか不安だったんだろ!

Bくん:あ、それもあった(笑)

Aくん:同じクラスに開成を蹴ってきたやつもいますね。全国模試で1位とかになっていたやつです。でもいまはまったく勉強していないみたいで、それほどの成績ではありません。

Bくん:でも“ノー勉”で真ん中くらいならたいしたもんだよね。

Aくん:うん。きっと本気で勉強しだしたらあっという間に学年上位になると思う。

おおた:すごい友達がたくさんいるんだね。

Aくん:では、お先に行きます!

黙々と歩けばそのうち着く

後半戦。いきなり長い上り坂がある。その頂上にある売店の前で、数人の生徒といっしょに水分補給。すると売店のおじさんが、頭上を飛ぶトンビに向かってパンくずを投げた。トンビがキャッチする。わざわざ見せてくれたのだ。「これ、俺の遊び」と笑う。おばさんも出てきた。「頑張ってね! 頭はいいし、ハンサムだし、ラ・サール生はすごいねえ」と生徒たちを応援する。

一休みするのにちょうどいい場所を見つけた生徒たち

ときどき道ばたに腰を下ろす生徒も目立ち始める。「もう、本当に疲れました」と弱音を吐く生徒も出てくる。数人のグループで歩く生徒たちもいれば、1人で黙々と歩く生徒もいる。ある中学生は「これを乗り越えて、追試も乗り越えたら、本当に幸せだ!」と叫びながら駆けていった。そうか、期末試験の追試があるのか……。

いっしょに昼食をとったサッカー部の2人に追いついた。

Aくん:歩くの速いっすね。

おおた:みんなみたいに走ったり歩いたりしたらそのほうが疲れちゃうからさ。ひたすら同じペースで歩くのがいちばんラク。

Bくん:それにしても、疲れたね。

Aくん:うん。でも、黙々と歩けばそのうち着くよ。

そう。他人と競争しようとするとつらくなる。焦ってペースを乱すと余計に苦しくなる。かなたまで続く一本道を前にすると「これをずっと歩くの?」と信じられない気持ちになる。が、無心になって一歩一歩進めば、いつの間にかその果てしなく見えた道のりは自分の背後にある。それをくり返せば、必ずいつか目的地に到達する。速い遅いは関係ない。人生も同じだ。そのことに気づくのが、この行事の隠された目的なのではないかと私は感じた。

うどんは保護者が一杯一杯その場でゆでている

ゴールは桜島補助体育館の駐車場。最終チェックポイントで、タイムを記録し、順位を書いた札をもらう。私のタイムは5時間50分。生徒たちの平均くらいだ。手元のスマートウオッチによれば、2679キロカロリーを消費した。

母の会のメンバーが、約1000人分のうどんとおにぎりを用意している。食べ終えた者から各自フェリー乗り場へ向かい、帰路につく。20年後か30年後かはわからないが、いつか彼らも、自分のペースで自分の目的に向かって自分の人生を歩む術(すべ)を身につけるのだろう。そうなればどんな悪路も坂道も、怖くなくなる。

その前に、とりあえず追試、頑張れよ!

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ラ・サール高等学校・中学校(鹿児島市)
創立は1950年。中学の1学年定員は約160人、高校は内部進学生を含めて約240人。学校に寮が併設されているので全国から生徒が集まる。生徒の約半数は寮暮らし。2019年の東大合格者数は34人。東大・京大・国公立大学医学部合格者数の5年間(2015~19年)平均は120人で全国10位。同じく国公立大医学部合格者数では全国4位。卒業生には野村ホールディングス元会長の古賀信行氏やりそなホールディングス会長の東和浩氏、NHK前会長の上田良一氏ほか、著名な政治家や官僚も多い。

新・男子校という選択 (日経プレミア)

著者 : おおたとしまさ
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 935円 (税込み)

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