根拠ない自信で起業 乳がん検診装置に挑む女性CEOリリーメドテック最高経営責任者(CEO) 東志保氏(下)

誰もやれないなら、自分がやるしかない

ただ、夫婦で起業することは決心したものの、当初はエンジニアの1人として関わるつもりだったという。社長は外部からスカウトしようと、複数人と面談を重ねた。

「でも、なかなか『この人なら』と確信できる適任者が見つからなかったんです。例えば、ある候補者からは『週2日勤務なら』という条件を提示されました。経験・実績ともに申し分ない方でしたが、その形だとどうしても、先に目標や計画を決定して、『道筋通り』に事業を進めていくことが優先される。私たちは初めから道を一つに絞るのではなく、志のおもむくまま、頑張り次第でどこにでもいけるようなチームを作りたかったんです」

装置をつくるだけなら、大手メーカーがやってもいい。ベンチャーでやるなら、変革を起こす気概がなければ意味がない。だが、熱意も、アイデアも出し切って先頭に立てる人材はどこにいるのか。夫婦で頭を悩ませていたとき、隆氏はこう言った。「あなたがやるべきだ。どんな状況に置かれても判断力を発揮できる。変革をもたらす気質がある。あなたがCEOにならないなら、この事業は成功しない」

創業当初は投資家からも経営者として扱ってもらえない体験も味わった

すぐに首を縦に振ることはできなかった。事業のシーズ(種子)になる技術に関して知見を持っているのは、むしろ隆氏のほうだ。財務や人事など、経営に関する知識も東氏は十分に持ち合わせていなかった。実際、起業に向けて資金調達を始めた頃は、投資家からも経営者として扱ってもらえないことがしばしばあったという。

「夫が私を『経営者だ』と紹介しても、目の前の投資家が私には関心を持っていないな、と分かるんです。あいさつもそこそこに、技術や事業に関する具体的な話はあくまで夫としようとする。確かに、夫婦で起業をして妻のほうがトップになるというのは珍しいケースです。『何か事情があるのでは』と疑われたのかもしれませんし、事業自体に興味は持っていても『出資直前にトップは変えてしまえばいい』くらいに考えられていたのでしょう」

しかし一方で、「起業家に必要なのは知識や経験ではない」と力づけてくれた投資家もいた。「医師でも研究者でもなく、経営の経験もない人間に本当に経営者が務まると思うか」――。東氏が率直に意見を求めると、「なぜあえて起業するのか、そこへの強いこだわりを持っていることだけが起業家の条件だ」という言葉が返ってきた。

「できない理由」なら、いくらでも探せる。でも、東氏が目指すのは「新しい技術を、必要な人々のところへ広く、早く、届けること」だった。自分を信じ、周囲を巻き込む。必要なことは走りながら学ぶ。それができるかどうかと、自分に問うたとき、答えはイエスだった。

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