ベーシックな装いを、ひとひねり。ルイ・ヴィトンのバッグにアートを描いたり、ジャケットに家紋を入れたり。ビームス社長の設楽洋さんが施すアレンジは時に意表を突く。それは本物を「崩す」楽しさを知っているから。型を破ればファッションの可能性は無限大に広がる。独特の遊びは女子ゴルファー、渋野日向子(シブコ)さんのゴルフウエアや宇宙飛行士、野口聡一さんの宇宙ステーション滞在服など、最近手掛ける“ワークウエア”にも及ぶ。こんな設楽流の「面白がる精神」を次世代にどう伝えるのか。ファッション離れが進む若者に刺激を与えるヒントはそこにあるのだろうか。
「どうドレスダウンしようかと、いつも考えている」
――いまつけている時計はロレックス。クラシックなビンテージものですね。
「ロンドンのアンティークマーケットで見つけた1960年代のロレックス。黒フェースのバブルバックで、親父の形見です。80年代半ば、LA(ロサンゼルス)のマーケットで白フェースのバブルバックを手に入れたら、それを親父が見て、ほしい、探してきてくれ、と。それで買ったのですが、親父が亡くなってから、母に『あなたが持っていて』と言われて譲り受けました。たくさんある時計の中で、いつもしているのがこの2つ。僕はクラシックなものが好きなんですよ」
――こちらのルイ・ヴィトンのペイント入りトートは限定モデルですか。
「よくそう聞かれますが(笑)、友人のアーティストが市販品に描いたの。ルイ・ヴィトンをそのまま持つのは僕のキャラじゃないでしょ。本物でクラシックなものを、いじりたいんです。すっかり古くなってしまったスーツがありますが、同じアーティストに思いっきりペイントしてもらいました。一見普通に見えるけどちょっと違う、というのがいいんです。ビームスのコンセプトはベーシック&エキサイティングですしね」
――本物を自分流にアレンジするのが楽しいのですね。
「どうドレスダウンしようか、どう遊んじゃおうかと、いつも考えています。たとえば、このジャケットは普通に見えるけど着物地。内側の背中のところには家紋が入っています。お堅い職業の人とご飯を食べにいくときにこれを着て、お店の人に頼んで、見える位置に掛けてもらう。ハンガーからちらりと家紋が見えるようにね。そこから会話や笑いが生まれます。60年代の終わりのアカデミー賞で、ロックスターが上はタキシード、下はデニムで出てきたのをみて、すっげえ、かっこいいな、と衝撃を受けました。ちょうどドレスダウンという言葉を知ったころでした。服の基本があり、歴史があり、本物だから、崩すことが面白いわけ」
――ファッション離れしているといわれる若者たちも興味を持ちそうです。
「その面白さが伝わっていくといいですよね。ルイ・ヴィトンでほんとうにやりたいのはカップめんケースなんです。忙しくて会社でコンビニのお弁当やおにぎりを食べていると、社員から『なんだかシャビーなランチですね』と言われます。これが悔しいの。だからルイ・ヴィトンかエルメスにカップめんケース作ってもらって、それに入れて食べながら『ほうら、リッチだろう』なんてやりたい。シャンパンケースを作っても当たり前、カップめんでやるから面白い。そういう遊びは若者にも受けそう」