2020/3/18

目の健康守る

たった3分の「視線の追跡」で認知症を早期発見

「視機能」を手がかりに、認知症の早期発見を図るという取り組みもある。

目の動きを追跡する「アイトラッキング」という技術を用いて、3分間モニターを見るだけで認知機能のチェックが行える「アイトラッキング式簡易認知機能検査」だ。

モニターに問題と解答の選択肢が映し出される。これが3分間に10問続く。その間、モニターを追う被験者の視線の動きが記録され、正解を見つめていた時間が長いほど認知機能スコアが高いと判断される(下図)。

〈モニター画面を追う視線を赤外線カメラが記録する〉

被験者の目の動きと注視した位置、時間を赤外線カメラが検出することにより測定する「アイトラッキング式簡易認知機能検査」。約3分間、被験者はモニターに映し出された映像や画像を見るだけ。映像や画像は図形認識や記憶、計算問題などで構成されている。認知機能が良好な場合は正解の画像で視点が止まって見つめることになるが、認知症になると迷いが出て、他の画像に視点が移る時間が長くなる。正解画像を注視する時間を検出し、認知機能スコアに落とし込む。(Sci Rep. 2019 Sep 10;9(1):12932より改変)

〈画面の一例〉

開発に携わった大阪大学大学院医学系研究科の武田朱公准教授は「MMSE(Mini-Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)や、長谷川式認知症スケールといった従来の認知機能検査は医師と対面し、10~20分の質疑応答で行われる。今日の日付は? ここはどこか? といったことが質問されるが、ごく基本的なことがわからず自尊心が傷ついたり、検査の前半で不正解が続くと途中で検査を拒否したり、泣き出してしまったりということもしばしば起こる。短時間かつ実用的な検査方法が必要だと常々感じていた」と話す。

この検査では、JVCケンウッド社が開発した「Gazefinder(ゲイズファインダー)」という赤外線カメラで視線を検出する計測装置を用いている。視線検出の技術はもとは長距離ドライバーの居眠り運転防止のために、まぶたが落ちて瞳孔が見えなくなるとアラームが鳴るシステムに使われていたもの。これが医療診断技術としても注目され、現在はゲイズファインダーを用いて小児発達障害の早期診断への応用可能性を探る治験が大阪大学で進行中だ。

この計測装置を認知症領域に適用できるのでは、と武田准教授は考えた。「どういう映像や選択肢を見せれば認知機能が正確に測れるか、といった検討を繰り返し、3分間で計算や図形、記憶などの課題をこなせる検査になった」(武田准教授)。この検査法は、従来の認知機能検査と遜色ない精度で認知機能障害の評価が可能であることも確認された(グラフ)。

「アイトラッキング式簡易認知機能検査」の認知機能障害検出効果を、従来の認知機能検査の一つMMSEと比較。健康な27人、軽度認知障害26人、認知症患者27人にそれぞれの検査を行った。その結果、この検査法はMMSEスコアと強い正の相関を示した。また、被験者をMMSEによって認知機能障害の重症度に基づき3群に分けたところ、同等の検出能力があることが確認された。 (データ:Sci Rep. 2019 Sep 10;9(1):12932)

認知症の「見逃し」なくして治療につなげる

武田准教授は「診療現場では、初診で認知症と診断される人のうち、数年前から進行していたはず、と思われる人が半数以上を占める」と話す。認知症には、遺伝的要因があるいっぽうで、高血圧や糖尿病、肥満、喫煙習慣や運動不足など、治療したり改善したりすることによって発症を避けられるリスクファクターが35%を占める、という報告がある。[注7]

「目の動きから得られる情報をもとに、簡易かつ正確に、認知症の手前の軽度認知障害の段階で発見できれば、これらのリスクファクターがある人は改善を心がけられる。それによって、認知機能の維持や正常化につなげていきたい」(武田准教授)

この検査は現在のところ、大阪大学医学部附属病院での研究協力を前提にした受診しか受け付けていないが、20年夏前までをメドに介護施設などでの活用も予定されている。さらに、1~2年以内には、iPadなどIT端末のアプリとして、家庭や街角での活用も可能になりそうだという。

大鹿教授は「目の健康と認知機能の維持、さらには全身の健康維持のために私たちが日常生活でできる対策は共通している。それは、カラフルで抗酸化成分が豊富な野菜や果物、魚を含むバランスのいい食生活をこころがけること、こまめに運動をすること、禁煙することなどだ。当たり前のことだが重要なことだと認識してほしい」と提案する。

こうした生活習慣が目と脳のアンチエイジングに有効であることには科学的な根拠がある。[注8]

日常の習慣を見直して健康維持につなげて、もし目の不調に気づいたら早めにケアをする、といった基本を大切にしたい。

[注7]Lancet. 2017 Dec 16;390(10113):2673-2734.

[注8] Am J Public Health. 2016 September; 106(9): 1684-1689. ほか多数

(ライター 柳本操、イラスト 三弓素青)

大鹿哲郎教授
筑波大学医学医療系眼科教授

東京大学医学部卒業、同大学眼科学教室、東京厚生年金病院眼科、ルイジアナ州立大学、東京大学医学部助教授を経て現職。前日本眼科学会理事長、前日本角膜学会理事長。白内障手術、眼光学、角膜疾患、角膜移植を専門とする。
武田朱公准教授
大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座・認知症グループリーダー

北海道大学医学部医学科卒業。大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。東京大学大学院医学研究科特任助教、日本学術振興会特別研究員・海外特別研究員、米国ハーバード大学医学部・マサチューセッツ総合病院研究員を経て現職。認知症の病態解明と早期診断、治療法の開発を研究。
「健康」「お金」「働く」をキーワードに、人生100年時代を生きるヒントとなる情報を提供する「ウェルエイジング」を始めました。
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