英国修道院に48体の遺骨 14世紀ペスト大流行の悲劇

日経ナショナル ジオグラフィック社

ソーントン修道院はヘンリー8世により1539年に閉鎖された。その跡地にある砂礫(されき)の丘の発掘が行われたのは2013年だった。発掘前の調査では建造物の遺構が見つかると推定されていたが、実際に見つかったのは48体の遺骨だった。体は布に包まれた形跡があり、腕は腰の位置で交差し、体の前に置かれていた。埋葬品はなかったが、2体の骨の放射性炭素による年代測定と、共に見つかった2枚の1ペニー銀貨から、ペストが大流行した時期の集団墓地だと判明した。

墓内に眠っていた死者の推定年齢から被害の様相が見て取れると、ウィルモット氏は言う。埋葬者の半数以上が17歳未満の子どもだった。当時、乳児の死亡率は高かったものの、それを過ぎれば大人まで高確率で成長できたことを考慮すると、異常に高い数字だ。

「私たちが得たのは壊滅的な被害における死亡率の数字です。基本的にはあらゆる人が同じように犠牲になりました」とウィルモット氏は語る。

1348~49年のペストの大流行の犠牲者。英イングランド、ソーントン修道院の敷地内で見つかった集団墓地には、48人が埋葬されていた(PHOTOGRAPH COURTESY UNIVERSITY OF SHEFFIELD, ANTIQUITY PUBLICATIONS LTD)

この地域の教区の墓地は、現在も使われている。だが、ソーントン修道院からわずか1.6キロの所に位置していたこの墓地は、14世紀のペスト大流行時には、犠牲者で溢れかえっていたのかもしれない。

「これらの遺体は、教会の墓地が満杯になったため、修道院の敷地に埋葬されたのではないかと、私は考えています。通常の埋葬要件を無視して墓地の共同の墓穴に遺体を詰め込むのではなく、修道院の防壁の内側にある土地を利用したのです」と、ペストに関する3冊の著作がある英ケンブリッジ大学の歴史学者ジョン・ハッチャー氏は話す。同氏は今回の研究には関わっていない。

見つかったペスト菌のDNA

埋葬されていた2人の子どもの歯からはペスト菌が見つかり、そのうちの1人からはペスト菌のDNAも採取できた。

「ソーントン修道院の埋葬者からペストのDNAを採取できたのは、重大な成果です。特に、イングランド北部では初めてのことですから」と英ロンドン考古学博物館(MOLA)の上席人骨学者ドン・ウォーカー氏は話す。MOLAは2013年、ロンドンで新しい地下鉄の建設中に、1348~49年に大流行したペストの集団墓地を発掘している。

同氏は今回の研究を次のように評価する。「このペスト菌のDNAをさらに分析すれば、流行期とそれ以降のヨーロッパにおけるペストの進化や拡散に関する近年の研究が、間違いなく大きく進展するでしょう」

、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年2月26日付]

注目記事
今こそ始める学び特集