井上芳雄です。最近は映画などの推薦コメント(レコメンド)を頼まれることが増えました。短い文章で自分が感じたことを伝えるのは難しいですね。素晴らしい作品であるほど、自分の考えをちゃんとまとめて、読んだ人が「それなら見たいな」と思うものでありたいし。レコメンドはけっこう大変な仕事で、責任が重大だといつも感じています。
最近だと、2月7日に公開された『37Seconds』(サーティセブンセカンズ)という映画に、こんなレコメンドをしました。

この映画の主人公は、生まれた時に37秒息をしていなかったことで脳性まひになったユマという23歳の女性。彼女が自分の道を切り開いていく話です。ユマの母親役で出演されている神野三鈴さんから教えていただき、映画を見てみると、素晴らしかったので、レコメンドを書きました。ただ、軽々しく感想を言えるテーマではないので、実際に書くときは、もう1回見て、自分で納得したうえでまとめました。
あらためて見て確信したのが、この映画は障害を抱えているのが大変だと言いたいのではなく、ユマちゃんが、自分は自分でよかった、と言っているように、37秒をどうやって乗り越えていくかの話。誰にも多かれ少なかれ、「あのときああじゃなかったら」とか「自分はもっとこうだったら」という思いはあるだろうから、普遍的なテーマを描いている映画だなと。だったら「誰にも自分にとっての37秒があるんじゃないか」と言ってもいいはずだと、自分の中で考えが落ち着いたので、こういう言葉になりました。
作品が素晴らしくて、その良さを伝えたいと思っても、4~5行くらいの文章にまとめるのって難しいですね。感じたことをそのまま書けばいいんでしょうけど、やっぱりセンスとか考え方とか、もっと言えば自分自身が問われるみたいな気持ちになるので、すぐにはまとまりません。2~3日寝かせるというか、時間をおいてから言葉にすることが多いのです。
昨年公開された『ベル・カント とらわれのアリア』へのレコメンドも、じっくり考えて書いた記憶があります。ジュリアン・ムーアさんと渡辺謙さんが共演した米国映画で、1996年にペルーで起きた日本大使公邸占拠事件から着想を得て、テロリストと人質の交流を描いています。
これも素晴らしい映画でしたが、実際の事件が題材で創作のところもあり、政治背景も絡まってくるので、あまりうかつなことは言えません。ジュリアン・ムーアさんがオペラ歌手を演じているので、歌を軸にしようと思いました。
違う立場の人達が向き合い、生活を共にする中に、幻のユートピアを見た気がします。
真実の愛を歌に託せば、全ての人に届くかもしれないという夢を抱いてしまうような。
それでも、私達は歌い続けるしかありません。
絶望から希望へと。
今読み返すと、ちょうど舞台の『組曲虐殺』で小林多喜二を演じていたころだったので、絶望や希望というところに目がいったみたいです。短い文章の中にも、そのときの自分の気持ちが反映されているものです。