現在、先進国で夫婦別姓を認めていないのは日本だけだ。旧姓使用を求める声を受けて、旧姓併記が可能な国家資格は増えている。2019年には住民票や運転免許証など公的書類にも広がってきた。ただ、使い分けの不便などを指摘する声は根強い。
選択的夫婦別姓は夫婦が望む場合に結婚後も双方が結婚前の姓を名乗ることを認めるしくみで、従来通り夫婦同姓を選ぶことも可能だ。日本経済新聞が全国の働く女性2000人にインターネットで聞いた調査では、20代から50代の全年齢層で賛成が7割を超え、全体では74.1%を占めた。内閣府が男女5000人に実施した世論調査(17年)では、選択的夫婦別姓を認めるための法改正を「してもかまわない」と答えたのは42.5%だった。働く女性のニーズは高い。
仕事上で使いたい姓について尋ねたところ、働く未婚女性の51.6%が「旧姓」、13.7%が「事実婚で旧姓のまま」と答えた。旧姓使用を希望している人は合わせて約65%に上った。
調査では結婚後に姓が変わることが、働く女性に多大な負担をもたらす実態が浮き彫りとなった。仕事上の不利益として多く挙がったのは、新姓に切り替わることでキャリアや業績が分断される点だ。
研究職の場合、専門分野における業績や論文が積み上げたキャリアの証しになる。「旧姓の論文と新姓の論文が同一人物の成果と見なされない」(58歳)ため、正当な評価が得られないとの訴えもある。「一から人脈構築を始める形となった」(57歳)などの不便さは職種を問わず起こる。
業務に必要な資格への影響が大きいとの声もある。「姓が変わったため取得した資格が消滅、再取得が必要となった。旧姓と新姓が同一人物のものだと証明するためにおカネと時間がかかった」(58歳)。「資格の証明書に新姓を追加することになり、変更手続きの費用が発生した」(29歳)
国連は夫婦別姓を認めない日本の民法規定が差別的であるとして、是正勧告をこれまでに3回出している。別姓が当たり前の国で、結婚による姓の変更が理解されないケースもあり、海外で取得した資格や学位をめぐる煩雑さも残る。「旧姓と新姓の2つが存在するせいで、米国の会計士資格の登録でもめて、時間がかかった。『日本人女性が国外に出られない仕組み』と現地の人にやゆされた」(27歳)といった体験も寄せられた。