トヨタがスマートシティーをつくる理由

一方、トヨタの街は一瞬どこまで本気なんだろうとも思うが、考えれば考えるほどリアルだ。

WOVEN CITYがつくられるのは2020年末までに閉鎖が決まっている関東自動車工業(現トヨタ自動車東日本)の東富士工場跡地。約1100人の従業員は東北へ異動することに決まっているが、東京ドーム約15個分、70万平方メートルの土地の再利用は容易じゃない。正直田舎だし、隣接するトヨタ東富士研究所は既に巨大オーバルコースを含む試験場を持っているし、近くには富士スピードウェイもある。再利用の道としてスマートシティーは現実的だ。

WOVEN CITYの模型。「70万平方メートルの広大な土地の再利用としては現実的だ」と小沢氏

おまけに、トヨタは既に住宅関係事業への本格参入を決めている。19年5月には、パナソニックとの共同出資で「プライムライフテクノロジーズ社」をつくると発表。パナソニックホームズ、トヨタホーム、ミサワホームなどの住宅事業会社を傘下に収め、街づくり、新築請負、リフォーム、住宅内装、海外事業などを行うと宣言し、20年1月にスタートした。

WOVEN CITYはCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化の総称)&MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)に対する「住む研究室」としての重要性も高い。

ご存じのように、今は自動車業界の100年に1度の大変革期とも言われ、コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化や移動そのものをビジネス化するMaaSへの対応は避けられない。しかし、自動運転や電動化は言うほど順調ではない。関係者の中には「2020年には自動運転&電動化バブルがはじける、それも目に見えにくい形で」と宣言する人さえいる。

最大の難題は「実証実験」である。人、クルマ、自転車が往来する街で、自動運転車やMMaaSの実験を重ねなければ有効なデータが取れないが、リスクは避けられず、今のネット社会で「自動運転車で人身事故」などのニュースが一度流れれば、簡単に開発はストップするだろう。

クルマは夜間に歩行者をどこまで検知できるのか? しゃがんだ人は大丈夫なのか? 路上で寝ている人はどうすればいいのか? 雨の日、雪の日の自動運転はどうなるのか? 5分で伸びるソバを本当に温かいうちに運べるのか? ドローンが落ちたらどうなるのか? 試したいことは無数にある。

そこでWOVEN CITYの登場だ。広大な工場跡地にトヨタ関係者や新事業系の家族を集めて2000人程度の街をつくる。既に東富士研究所に数百人の研究者は所属しているはずなので、それだけで半分は賄えるはず。

関係者ばかりなのでコンセンサスは取りやすく、データもバンバン取れ、事前告知もしやすいのでリスクは最小限に抑えられる。

計画では道を3種類に分け、1つ目は完全自動運転かつゼロエミッション車(排ガスを排出しない車両)のみが走行する車両専用道、2つ目は歩行者とスピードの遅いパーソナルモビリティーが共存する道、3つ目は歩行者専用道。さらに地下には燃料電池のプラントと同時に、自動宅配ネットワークもつくるという。

工場跡地の有効活用になると同時に、今の大変革の最大のネックを解消できる「住む研究室」計画。十二分に現実的ではないか。それどころか豊田章男社長は、すでに静岡県の川勝平太知事と裾野市の高村謙二市長にコンタクトを取り、協力を要請している。トヨタがつくるハイテクスマートシティー。もしや手塚治虫が描くような未来都市の出現となるのか。

これに注目せず、何に注目すればよいのかとすら私は思う。

豊田章男社長はすでに、静岡県知事と裾野市長に協力を要請している
小沢コージ
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は「ベストカー」「時計Begin」「MonoMax」「夕刊フジ」「週刊プレイボーイ」など。主な著書に「クルマ界のすごい12人」(新潮新書)「車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本」(宝島社)。愛車はロールス・ロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。

(編集協力 北川聖恵)

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