膝つき合わせて語れ トップの仕事は切り込み役にあり島津製作所社長 上田輝久氏(下)

――なぜ新たな領域に挑戦するのですか。

「京都企業だからというのもありますが、独自性を追求することが島津の価値観です。『これをやったらもうかるだろう』という事業は他の会社も同じように考えます。島津はそういう分野を追うことはある意味『苦手』です。みんなと同じように段取りよくつくるのは上手ではない。そもそもそこに大きな価値を見いだしていないのです」

認知症やがんの発見など、新たな診断や治療法の確立を目指す「アドバンスト・ヘルスケア」に取り組む(社内健康増進イベントで)

――島津には02年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏が在籍します。

「田中シニアフェローは比較的自由に研究していたようでした。人間には本質的に『何かを成し遂げたい』という欲求があります。それを大事にするのが島津なのです。そうした強い思いを持った若い研究者もいます。トップとして『もっと自分で考えて提案しろ。提案があればバックアップするぞ』といっています」

――次世代人材の育成のためにどのようなことに取り組んでいますか。

「技術者としては優秀でもマネジャーには向いていないという人もいます。異なる物差しで評価する必要があります。組織を率いるグループリーダーが評価されるだけではない。研究者や技術者には組織を率いるのは苦手であっても、優れた研究で貢献してくれる人も少なくありません。田中シニアフェローの経験も社内で生きています。一方で、マネジャー育成では海外出向などを通じて、マネジメントを意識させるようにしています」

好奇心、寛容さ、誠実さがリーダーの条件

――次世代リーダーの条件は何だと考えますか。

「新しいものへの好奇心が強いこと。そして、いろいろな考え方を許容できる寛容さでしょうか。そして、人に対しての誠実さですね。言葉だけではなくて、一生懸命にやろうとする人です。そんな人間がいいですね」

歴史から多くを学んだ。特に影響をうけたリーダーは武田信玄。適材適所で人材を活用する方法は社長としても参考になるという。親交のある太陽生命の田中勝英会長からは「人生を謳歌する姿勢」を学んだ。社長退任後の「野望」として「『SDGs(持続可能な開発目標)の村』のようなコミュニティーをつくりたい」と話す。そこでは年代問わず誰もが一緒に交流し、二酸化炭素(CO2)を使って発電できたり、自らの出身地、山口県の銘酒「獺祭(だっさい)」などうまい日本酒を飲めたり――と、アイデアは尽きない。

――島津をどのような企業にしたいですか。

「よりみなさんに身近な会社にしたいですね。今は分析機器を中心に企業や大学などで製品を使ってもらっています。ただ、一般の人には見えにくい。これからはいろいろな健康管理の仕組みづくりで使われるようにしたい。例えば、血液分析で認知症の予備軍とされる軽度認知障害を発見できるなどのサービスです。サイエンスによる社会の変化を『見える化』します。さらには、世の中にあふれる健康管理の情報を整理して提供します。新たな発明や技術を社会で活用できるようにするための会社を目指します」

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上田輝久
1957年(昭32年)山口県生まれ。82年京大大学院工学研究科修了、島津製作所入社。主力分析機器の「液体クロマトグラフ」の開発などを手がける。2011年取締役、分析計測事業部長などを経て、15年から現職。

(赤間建哉)

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