免疫の暴走がおきることも 新型コロナ、重症化の理由

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

2020年2月3日、封鎖されている武漢の病院で、回診中に肺のCTスキャン画像を見る医師(PHOTOGRAPH BY STR/AFP VIA GETTY IMAGES)

中国で猛威を振るっている新型コロナウイルスについては、まだ知られていないことが多い。しかしひとつだけ確実なのは、このウイルスに感染すると、体中に異変が起きるということだ。

SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)のように動物から人間へ感染した過去のコロナウイルスは、通常の風邪ウイルスとは違い、多くの臓器に広がって様々な症状を引き起こした。今回の新型ウイルスも例外ではない。

わずか1カ月あまりで2000人以上の死者を出したのはそのせいだ。致死率はSARSの5分の1程度のようだが、死者数は既にSARSを上回っており、感染拡大のスピードも速い。世界保健機関(WHO)は、この新型コロナウイルスによる病気を「COVID-19」と名付けた。

コロナウイルスに感染すると、体に何が起こるのだろうか。新しい型の遺伝子はSARSとよく似ているので、SARSの名を取ってSARS-CoV-2と名付けられた。新たな流行の初期の研究結果と、過去のSARSやMERSで学んだ知識を組み合わせることで、その答えが見えてきそうだ。

肺に始まり、肺に終わる

COVID-19はインフルエンザと同じ呼吸器系疾患であり、肺に始まり、肺に終わるとも言える。

通常、感染者が咳やくしゃみをして飛沫を飛ばすことによって感染は拡大する。具体的な症状もインフルエンザに似て、発熱と咳から始まり、やがて肺炎を発症し、さらに深刻な症状へと進行することがある。

SARSの流行後、コロナウイルスによる肺炎は、一般に3つの段階を経て重症化するとWHOは発表した。ウイルスの複製、免疫の過剰反応、そして肺の崩壊だ。

もちろん、すべての患者がこの3つの段階を経験するわけではない。SARS患者で呼吸器不全まで進んだ例は全体の25%だった。一方、COVID-19の初期データを見ると、約82%の感染者が軽症で済んでいるようだ。

さらに掘り下げてみると、新型コロナウイルスは他の点でもSARSと似たパターンをたどっているようだと、病原性の高いコロナウイルスを研究する、米メリーランド大学医学部の准教授マシュー・B・フリーマン氏は話す。

新型コロナウイルスは人間に感染すると、急速に肺を侵そうとする。

肺の空気の通り道である気管支の表面には、粘液を作る細胞と繊毛を持つ細胞がある。粘液は、肺を病原体から守りつつ、乾燥を防ぐ。繊毛は、花粉やウイルスなどのごみを取り込んだ粘液を押し出して、体外に排出する働きをもつ。

フリーマン氏によると、SARSはこの繊毛のある細胞に感染して死滅させるのが得意だったという。死んだ繊毛は抜け落ちて、ごみや粘液と一緒に気管支に溜まる。同じことがCOVID-19でも起こっていると、フリーマン氏は考えている。これが第1段階だ。COVID-19に関する最初期の調査では、患者の多くが両方の肺で肺炎を起こしており、息切れなどの症状を訴えていた。

そうなると、ウイルスの侵入を察知した体は、肺へ大量の免疫細胞を送り込み、損傷を取り除き、組織の修復に乗り出す。

これが正常に機能していれば、炎症のプロセスは厳しく管理され、感染した範囲をとどめられる。ところが、まれに免疫系が暴走して、健康な組織も含め、あらゆるものを破壊してしまうことがある。第2段階だ。

次の第3段階では、肺はさらに損傷し、呼吸器不全に陥る。また、死に至らないまでも、肺に後遺症が残ることもある。WHOによると、SARSの患者は肺にハチの巣状の穴が開いていたというが、新型コロナウイルスの感染者にも同様の病変が報告されている。過剰に反応した免疫系が組織を傷つけるせいで、こうした穴が開くようだ。

ここまで来ると、人工呼吸器が必要になる。また、酸素を取り込む場所である肺胞と、その周りをめぐる血管の間の膜の透過性が高まって、胸水がにじみ出てたまり、血液に十分な酸素を送れなくなる。

「特に深刻な場合、肺は水でいっぱいになって息ができなくなります。そして、亡くなってしまうのです」と、フリーマン氏は説明する。

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